物損事故をおこしたら警察呼ぶ?

物損事故を起こしてしまったら、先ず何をすべきなのでしょうか。
物損事故も人身事故と同様に、きちんと警察に事故の届け出をしておくことが必要です。
事故直後からの対応方法と、注意すべき点ついて詳しくご説明いたします。

1. 物損事故を起こしてしまったら

車と自転車、車と歩行者、車と車など様々な状況の事故がありますが、交通事故という聞いて思い浮かべるのは、怪我を伴う事故ではないでしょうか。
交通事故は怪我を伴うものだけではありません。
交通事故には「人身事故」と「物件事故(物損事故)」という二つの概念があります。
前者は、死傷者がいる「人の損害」を含む事故のことを指し、後者は「物だけの損害」の事故を指します。

「車同士ですれ違いざまにこすってしまった」とか「民家の壁にこすってしまった」「雪道でタイヤ滑りガードレールにぶつかった」という事故は、人に怪我がなければ、後者の物損事故として扱われます。怪我人のいない交通事故は全て物損事故という扱いで処理をされることになります。

では、物損事故を起こした時にはどのような対応をすべきなのでしょうか。

基本的に事故直後にすべきことは人身事故の場合となんら変わりはありません。

まずは、人身事故の場合と同様に、二次被害による事故を引き起こさないように周りへの危険防止措置の配慮をします。
車を動かせるような状態であれば路肩に車を移動させ、後続車が巻き込まれないようにハザードランプを点灯させるなど配慮をしましょう。
また、車から煙が上がるような損傷がある場合、エンジン爆発など周囲への危険もありますから、できるだけ傍に人が寄らないようにしておくことも大切です。

次に、たとえ物損事故であっても自分を含め怪我人がいないか確認をしましょう。
怪我人がいるのならば、人身事故となります。至急救急車を呼びましょう。また、軽度の怪我のため「怪我は軽度で問題ないから物損事故でいい」といわれたからといって、鵜呑みにして直ぐに「物損事故」扱いにせず、少しの傷であっても念のために病院にいくよう促しましょう。

一旦は物損事故としておいて、あとで人身に切り替えることも可能です。物損事故扱いから人身事故扱いに切り変える場合には、医師の診断書が必要になります。切り替えに明確な期限はありませんが、事故から期間があいてしまうと、事故と怪我の因果関係や怪我の信憑性が薄いことから、人身への切り替えが難しくなることがあります。
また、人身事故にしておかないと、治療費等のケガに伴う賠償を保険で賄うことができなくなってしまいます。本当に怪我が大したことなくて物損事故だけであればそれでいいですし、万が一、相手に怪我があった場合にはしっかりと補償をできるように、必ず人身事故への切り替えをしましょう。

そして、怪我人がいないことを確認しながら警察を呼び、実況見分してもらう手配をします。警察が来るまで、できる限りその場の状況を保持するように努めましょう。
車から煙が出るような損傷の場合は、合わせて消防署などにも連絡をしておくことが必要です。

2. 警察に届け出は必要?

これまで述べたように、物損事故には様々な状況があります。
「ガードレールにぶつかった」とか「民家の塀にこすってしまった」など、大した損傷がないものであれば、警察に連絡せずに当事者間で示談してしまおうと思う人がたくさんいます。わざわざ警察を呼んで点数を取られたくと思う人もいるでしょう。しかし、交通事故に関してはどんな軽微なものであっても警察を呼ばなければなりません。

なぜかというと、道路交通法第72条1項に「警察への報告義務」が規定されているためです。
規定の中には「警察官に当該交通事故発生した日時、及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない」と定められています。これは、事故の程度や人身事故・物損事故の区別に関わらず、運転者が負う報告義務です。

そのため、これを怠った場合には罰則を受けることになります。「物損事故だから連絡しなくていいや」と思って放置していると、報告義務違反として3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されてしまうことがあります。

基本的に、飲酒運転や無免許運転以外の物損事故の場合、刑事罰に科せられることはありませんし、行政罰に問われることもありません。行政罰に該当しないので違反もつきません。そのため、物損事故をしても無事故無違反としての扱いにかわりはありません。そのため、警察に連絡したところで何の不利益もありません。
交通事故の現場でよく「人身事故ではなく物損事故扱いにして示談しませんか?」と相談されるのはこのせいです。

また、事故から数日たってから報告すると当て逃げだと思われる可能性があるので、早めに警察に連絡しておくことをお勧めします。当て逃げとみとめられてしまうと、危険防止等措置義務違反(5点)・安全運転義務違反(2点)の違反点数をつけられることがあります。

警察に連絡をしていないと、交通事故があったことを証明する交通事故証明書が発行されません。対物保険などの保険の支払いには交通事故証明書が必要になることがほとんどです。発行されないと保険が使えなくなる可能性があります。
どんな軽微な物損事故でも、事故後すぐに警察に連絡をするようにしましょう。

3. 相手方への賠償はどうする?

物損事故であっても、人身事故であっても、治療費とは別に物の損害としての支払が求められます。
人身事故の場合は、保険会社にお願いして相手方への支払いをしてもらうことがほとんどです。では、物損事故の場合はどうすればいいのしょうか。

物の損害の場合、事故の程度や物の損傷具合いによって支払額が大きく変わるため、保険を使って賠償する場合と保険を使わず自分で支払いをする場合が考えられます。

一般的に、物の損害に対する賠償には以下のケースがあります。

・一定の賠償額が決まっていて、それに基づいて支払うケース
・事故前の評価額と修理後の評価額の差額から賠償額を算定した「評価損益」を支払うケース
・事故当時と同程度の評価額で支払うケース

これらのうち、どの方法の支払を求められるかは損害物によってかわり、賠償額も大きく異なります。

例えば、ガードレールや電柱など、公的物を壊してしまった場合は、市や県などの指定管理者に対して定めた金額を支払うことが求められます。
ガードレールの算定は規格にもよりますが、1メートル当たりの単価は4500円程度とされ、取り換えなければならない長さ分の支払いと設置工事費を加算した金額が請求されます。ある程度金額の予想はできますが、損害の大きさによっては多額となることもあります。
 
私有物を壊してしまった場合は、交渉・示談の相手は破損物の持ち主となります。
壁をこすってしまったという場合は修繕費を支払えばいいので単純ですが、注意しなければならないのは、車やバイクなどの損害です。
車両やバイクの損害は、全損か一部の修理が可能な損害かによって賠償額は大きく違ってきます。

まずは全損扱いの場合についてご説明します。
全損にも二つの定義があり、物理的全損と経済的全損があります。
物理的全損は、車を修理しても乗ることができないため廃車にすることを指します。
一方、修理をすれば使えるとしても、車の年式や修理の大きさによっては、修理代と車の時価額を比較した時に修理代のほうが高くなってしまうことがあります。そうなると車を乗り換えたほうが金額的に安いので廃車にします。これを経済的全損といいます。

物理的全損でも経済的全損でも請求できるものは同じです。事故当時の車両時価額と買い替えにかかる諸経費のみ請求することが可能とされます。修理はしないため、修理費の支払はありません。
車両価格については、中古車販売のサイトや「レッドブック」と呼ばれるオートガイド自動車価格月報を使って、走行距離・年式・車種を参考に時価額が判断されます。

まれに、物の耐用年数を軸に、一般的に使えるとされる年数から現在までに使った年数を考慮し、残っている価値がどのくらいあるかで賠償をする、減価償却定率法という方式で算出されることがあります。これを使うと、市場で取引されている値段よりも低くなる可能性があるので注意が必要です。

また、乗り換えるときに車両登録料や車両ナンバーの取得費用、車庫証明の取得費用など、乗り換え費用がかかります。この費用も事故による損害賠償請求の対象になります。

次に、一部の損害の場合のご説明です。
支払の金額は、修理にかかった費用だけということもあれば、修理代に加えて他の費用が請求されることもあります。修理中の代車の費用なども、賠償の範囲として認められます。
また、事故前の価格と修理後の価格の差である「評価損」も合わせて支払いを求められることがあります。

「評価損」とは、事故を起こさなければ高く下取りに出せたのに、事故にあって修理をしたせいで評価額が安くなってしまった分の損害賠償ということです。保険会社が賠償する場合、一般的には評価損は認められないことが多いとされます。

また、車載物が壊れたというのも物損の費用の一部とされます。
車に乗せていたパソコンが壊れた場合には、その分を支払ってもらうことができます。着衣についても物損の一部とされるので、破れてしまった服や血が付いて着られなくなった服も、損害賠償の対象となる可能性があります。
着衣の損害に関連して気をつけたいのは、メガネです。メガネは体の一部とみなされて人身損害となってしまう場合があります。

このように、損害の対象となるものや賠償方法によって支払う金額に大きな差が出てきますので、保険を使うのか、自腹で払うのかは慎重に考えたほうがいいといえます。

4. 保険はおりるの?

基本的には、対物保険や車両保険を使うことはできます。ただし、保険を使うためには警察に届けている必要があります。事故があったと認定する方法として「交通事故証明書」が要求されるからです。「交通事故証明書」は、事故を警察に届けている場合にのみ、自動車安全運転センターから発行されます。

保険が使える場合でも、使う前には注意が必要です。保険を使うと等級が下がるため、次年度からの保険料が上がることになります。正確にいうと、保険料の割引率が低くなるために支払額が上がります。事故の内容にもよりますが、「他人の家の壁にぶつかってしまった」「車同士ですれ違いざまでこすった」などで自分に過失がある場合には、3等級程度ランクが下がります。

事故後3年間は「事故あり」として扱われることになります。その後、別事故で保険を使うことがなければ、1年に1等級ずつ上がっていきます。したがって、最低でも3年しないと元の等級になりません。等級が戻らない間は割引率もその分低いまま支払うことになります。
そのため、3年間で自分が多く払わなければならない保険料と、損害賠償をしなければならない金額を比較して、保険を使うかどうかを決めることになります。

保険を使った場合であっても、加入している保険の補償限度額を超えた場合は自分の支払となります。保険で全てが賄えると思っていたら、後日支払を求められたということもあります。保険の補償限度額がいくらなのか、自分の持ち出しがあるのかといったことも、保険を使う前に確認しておきましょう。

なお、保険を使わない場合には直接相手と交渉して示談することになります。示談後に支払い金額が足りない等の主張をされないように、必ず示談書を作成しましょう。
示談書には、支払費目と金額等を記載し、別途協議するものがあればそのことも記載しておきます。必ず2通作成して署名捺印をし、双方で1通ずつ保管しておきましょう。

5. まとめ

今回は物損事故について解説しました。
怪我がない事故の場合、当事者双方で穏便に済ませたいと思いがちですが、警察への報告義務があります。どんな事故であれ、必ず警察を呼びましょう。

物損事故は、怪我の通院慰謝料と違って決まった支払金額はありません。車や損害物によって損害賠償額が異なるので、賠償額が膨大になることも考えられます。相手との交渉がうまくいくとは限りませんし、納得のいかない金額を請求されてこじれることもありえます。不安があるときは弁護士に相談してみてください。
不要な金額を支払ったり、交渉がこじれて長期間ストレスを抱えるくらいなら、早めに弁護士に相談しておくことをおすすめします。

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