東名あおり事故に見る「危険運転致死傷罪」

2017年6月に起きた東名高速道路でのあおり運転事故について2018年12月14日ついに判決が下されました。
判決では危険運転致死傷罪が認められ、大きな注目を浴びています。
今回認められた危険運転致死傷罪とはどんな刑罰なのでしょうか。事件の概要を交え詳しく解説いたします。

東名あおり事故に見る「危険運転致死傷罪」

1. 東名高速あおり運転事故とは

2017年6月、東名高速下り線、一家4人を乗せたワゴン車に悲劇が起こりました。
事件の発端は、下り線パーキングエリア内で、被害者荻山さん夫妻が加害者石橋被告に対し、車両が駐車スペースからはみだしていることについて「邪魔だ」とひとこと注意をした、たったそれだけのことでした。

荻山さん夫妻の注意に腹を立てた石橋被告は、あろうことかその怒りにまかせ、パーキングエリアを出たあと、被害者荻山さん一家の乗ったワゴン車を執拗に追いかけます。幅寄せやパッシング、被害者車両の前に割り込み減速するなどの危険なあおり運転行為を複数回にわたり行い、最終的には、被害者一家が乗る車両の前に加害車両を割り込ませ、被害車両を中央分離帯傍の追越し車線に強制的に停止させ、被害者夫婦を車から降ろさせたところに後続のトラックが突っこみ被害者夫婦は子供を残して亡くなるという痛ましい事故へと発展してしまいました。
車の中には、幼い子供も同乗していましたが、一瞬のことで何が起こったかわからなかったといいます。

加害者はこの事実関係については、概ね認めていましたが、この件に対する処罰の解釈について、検察側、加害者弁護側の見解が真っ向から分かれることとなりました。

2. 検察側・弁護側それぞれの主張

世間に大きな衝撃を与えたこの事故は、連日報道されることとなり、事件については知っているという方は多いと思います。
しかし、この事故の裁判の争点を詳しくご存知でしょうか?

裁判の初公判は2018年12月3日に開かれました。
そこであらわとなった争点は、「危険運転致死傷罪」「監禁致死傷罪」が認められるか?という点です。
「危険運転致死傷罪」は2001年に設けられた比較的新しい法律で、酒や薬物で正常な運転が難しい状態での走行、車の制御が困難な速度での走行など一定の危険な状態で車を走行・運転をした結果、人を死傷させるに至った場合に課される刑罰です。
危険運転致死傷罪が認められた場合、人を負傷させた際には15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役が求刑されます。
また、一重大な犯罪の一つとされているため裁判員裁判の対象案件とされています。

今回の件で検察側は、「直前に被害者車両の進路を塞ぐなどした行為が、後ろから追突される事故を引き起こすことに至った。事故との因果関係にある」として、「危険運転致死傷罪」の成立を主張しました。
これに対し、加害者弁護士側は、事故は被害者車両の停車後約2分後に起こったことであるから、危険運転致死傷罪が、運転中であるということを前提としていることを考えると危険運転致死傷罪の成立は認められないということを主張しました。

さらに、検察側は「危険運転致死傷罪」が認められなかった場合を鑑み、「監禁致死傷罪」についても予備的訴因として起訴をしました。
「監禁致死傷罪」は、不当に人を監禁し、死傷させたものは普通の傷害と比較して重い刑に処すると定められており、3年以上の有期懲役が求刑されることになります。
監禁とは、一定の場所からの移動を不可能か著しく困難にすることを指すとされており、本件で検察側は、高速道路上では自動車の進行方向が1方向のみであること、追越し車線上でその進行方向を封鎖していたことから危険から逃げることが困難であることに着目し、「著しく脱出が困難な高速道路の追越し車線に被害者の車をとどまらせることは監禁にあたる」と主張しました。
これに対し、加害者弁護側は、被害者車両を停車させていた時間は2分であり、加害者側にそれが監禁行為である認識があったかどうかは疑問だとして「監禁致死傷罪」の成立要件を満たしていないため、無罪を主張しました。

3.東名高速あおり運転事故の判決

東名あおり事故の判決

2018年12月14日に横浜地裁で、残された遺族らを含む多くの傍聴人が見守るなか、加害者に対し判決が言い渡されました。
判決内容は


被告が走行車線に車を止めたこと自体は危険運転には当たらないとしたものの、それ以前に4回にわたって荻山さんの車の進路を妨害した行為については事故に密接に関係しており、追突事故を起こす原因となったとして、危険運転致死傷罪を認める。

というものであり、懲役18年が言い渡されました。

この判決内容からすれば、検察が主張した「直前に被害者車両の進路を塞ぐなどした行為」に停車したことが含まれたということではなく、それに至るまでの行為すべてが危険な行為であるとし、危険運転として認められたことになります。
加害者が停車をさせたことについて裁判所は、

  1. 速度が0状態では構成要件の「重大な危険を生じさせる速度」というのは解釈上の無理があること
  2. 停車状態で大きな事故が生じたり、事故を回避することが困難になるとは認められない

とも言及をしています。

また、懲役18年という刑について裁判長は


パーキングエリアでの駐車の仕方を注意されたからといって一連の犯行に及ぶのは常軌を逸していて、くむべき事情はなく、強固な意志に基づく犯行であるから、刑事責任は重大だ。家族旅行の帰りに、突如、命をうばわれた被害者の無念さは察するにあまりある

と評しています。

予備的訴因としてあげられていた「監禁致死傷罪」については、「危険運転致死傷罪」が、認められたため、成否は判断されませんでした。

4. まとめ

注目された、今回の東名高速あおり運転事故の判決は結果的には、「危険運転致死傷罪」が認められることとなりました。
これまで危険運転致死傷罪がみとめられた多くの事故は、飲酒や薬物使用などにより正常な認識ができない状態での悪質な行為によって引き起こされた事故だったことを考えると、今回の判決は飲酒も薬物も起因としないあおり運転に認められたという点で、大きな変革をもたらす判決だといえます。

危険運転致死傷罪が法律として制定された裏側には、卑劣な加害運転行為を業務上過失致死傷罪として裁くには刑期があまりにも短い、刑が軽すぎるということを、これまでの事故被害者遺族たちが訴えてきた過去があります。
今回の事故の判決をきっかけに、今後のあおり運転が少しで減り、また、あおり運転に対しより厳しく厳罰化が行われることを祈るばかりです。

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