子供の交通事故、加害者に請求できるものとは?

「子供が交通事故に遭ったらどうしよう…」子供が小さい頃に親が必ず持つ不安の一つではないでしょうか。
実際に子供が交通事故に遭ってしまった場合、どういった費用が請求できるか、大人の交通事故との違いはあるのかなど、気がかりなことがたくさんあると思います。
子供の交通事故で加害者に請求できるものや、示談の前に確認したいことについて詳しく説明いたします。

1. 子供の交通事故の現状

年間で子供の交通事故がどのくらい起きているかご存知でしょうか。
警察庁交通局が平成30年3月に公表した児童・生徒交通事故の統計結果によれば、平成25年から平成29年の5年間の歩行者の小学生の交通事故死傷者数は延べ2万7264人です。
このうち、もっとも多くの割合を締めるのは小学校1年生の事故で、死傷者数は7461人(うち死者数は32人)にのぼります。小学校6年生の死傷者数が2085人(うち死者数4人)であるのと比べると、死傷者数は3倍以上、死者数だけで見ると8倍にもなります。

【小学生の交通事故死傷者数(平成25年-平成29年)】


【小学生の交通事故死者数(平成25年-平成29年)】

※出典:警視庁交通局「児童・生徒の交通事故」「小学生 歩行中の交通事故」

小学校1年生は入学したばかりで、登下校時に子供だけで外を歩くのに慣れておらず、周りの状況や車の接近に対してしっかり気を配ることができないためと考えられます。年齢的にもまだ理性で冷静に判断するということが充分にできず、衝動的に行動することもあるため、車の前に飛び出してしまう危険も大きくなります。また、身長が小さいために運転手から死角になって見えないことが多いという理由もあるようです。
小学校の高学年ともなれば、一人で行動することにも慣れ、歩行中の事故は減って行きます。ただ、一方で高学年になると自転車での事故が多くなるという統計もあります。

2. 過失割合と判断能力

子供が遭遇する事故は、交通弱者だから過失ゼロだと思う人もいるかもしれません。しかし、「ボールを追いかけて道路に飛び出した」「信号のない横断歩道で飛び出した」など、被害者側の責任も問われるかもしれないと思うような事故が多くあります。子供が交通事故にあった時の過失割合はどのようになるのでしょうか。

過失割合の算定には様々な要素が考慮されますが、重要な要素として「事理弁識能力」というものがあります。これは「自分の行動の結果を考えて、どうするか判断できる能力」のことです。具体的には、車が来ているところに飛び出しそうになったときに、車にぶつかってしまうという結果を考えて踏みとどまれる能力ということです。
これは、一般的には5歳から6歳くらいになると備わってくるとされます。子供の成長には個人差があるので、法律で一律に何歳と定められているわけではありません。同じ6歳の子供であっても事理弁識能力が認められる場合もあれば、認められない場合もあります。

この事理弁識能力が認められない場合、飛び出した子供の方が不注意だったとしても過失相殺はありません。しかし、子供があまりに小さい年齢であったり、親が監督すべき状況であったりした場合は、子供の過失は考慮されませんが、監督義務違反として親の過失が認められ、過失相殺されることがあります。

3. 子供が後遺障害を負ったら


子供の後遺障害は大人の後遺障害とは違い、細心の注意が必要です。
子供の怪我の場合は、治る可能性があると判断されやすい傾向があります。また、乳幼児だと症状を自分で伝えることができません。こういった理由から、子供の後遺障害は認定されにくいといえます。

大人の場合は、見た目は治ったと思われる怪我でも、何かしらの痛みや痺れなどの症状が残れば一生涯つきまとう可能性が高いとされるため、認定基準を満たしていれば後遺障害が認定されることが期待できます。
一方で、幼い子供の場合は、事故直後や数年は痛みや痺れがでたとしても、治癒力の高さから成長過程において治癒する可能性が考えられ、認定審査が厳しくなる傾向があります。
例として、歯が折れてしまった場合で考えてみます。
大人であれば永久歯ですから、折れた歯はもう二度と生えてきません。そのため、3歯以上が欠けてしまい、治療を加えた場合、後遺障害として認められます。
これに対して、小さな子供であれば歯が折れたとしても「乳歯」であることが多いでしょう。乳歯はいずれ生えかわる歯ですから、治療をしてもこれは欠損とは認められず後遺障害には認定されません。

また、後遺障害を認定されたとしても、損害の補填である逸失利益について注意が必要です。逸失利益とは、本来は得られたはずなのに、事故に遭ったことで得られなくなった利益のことをいいます。例えば後遺障害によって仕事を続けられなくなると、本来ならその後ずっともらえたはずの給料がもらえなくなります。この「もらえなくなった給料」が逸失利益です。
一般的に、逸失利益は若いほど大きくなります。将来働けたはずの期間が長くなるためです。また、平均余命が長いほど後遺障害を抱えて生きる期間も長くなり、それだけ大きな損害を被るともいえます。そうすると、子供のほうが大人に比べて後遺障害によって被るであろう損害は大きく、逸失利益の支払金額もそれだけ高額になると思われるでしょう。しかし、必ずしも子供だから逸失利益が大きくなるとは限りません。なぜでしょうか。

そもそも、普通の子供は働いていないので、逸失利益を算定する基準となる給与額がありません。子供や専業主婦などの収入がない人の逸失利益を計算するときには、「賃金センサス」という厚生労働省による賃金の統計データに載っている平均賃金を基準にします。この「賃金センサス」は、職業別や学歴別に平均賃金が算出されているので、大人の場合は該当する区分の平均賃金を基準にします。

しかし、子供の場合はまだ職業も学歴も定まっていないため、全体の男女合算の統計で計算されます。そのため、仮に成績がよくて、将来は学歴も職業も平均賃金の高い区分に入りそうだと思っていても、全体の平均を基準に計算されるために期待した金額にならないこともあります。
例えば、フィギュアスケートの大会で金メダルを取り、今後も世界で活躍できる実力をもっていたというような明確に認められる実績がない限り、子供がどんなに将来有望かを主張しても、簡単には認められません。

4. 成長後に現れる後遺障害

子供の後遺障害に特有の問題として、成長してから障害が出現するケースがあります。例えば、怪我をした部分の成長がとまってしまったり、今後大きく成長するはずの部分を失ってしまったりした場合です。子供の身体は成長途中なので、事故直後には障害が分からなかったり軽度の後遺障害と思われていたりしていても、他の部分が成長してくることで身体全体に対する欠損部分の割合が大きくなります。したがって、成長とともに後遺障害の度合いが大きくなっていくことになります。

そうしたケースでは、成長後に異常が出たときから実際に損害を被っているわけですから、賠償をしてもらう必要があります。
しかし、示談の内容によっては後から出た損害について賠償をしてもらえなくなることがあるので、注意が必要です。交通事故では相手との交渉の末、お互いに合意した損害賠償額などを記載した「示談書」を取り交わします。示談書にサインしてしまうと、特別な条件をつけていない限り、その事故についてはそれ以上の請求はしないという表明をしたことになります。
そうなると、成長過程で事故の怪我の影響が出た場合に、何も請求できなくなってしまいます。

そうならないためには、示談書にサインする前に全ての損害について賠償する内容になっているかどうかを、よく確認しなければなりません。しかし、どうしてもその時点では損害を確定できないケースもあります。そういう場合には、示談書の清算条項という項目に条件を付け加えることができます。「後遺障害部分については除く」とか「後遺障害部分については別途協議する」等といった記載をして示談していれば、後遺障害に関する損害については後からでも請求することが可能です。不安な場合は必ず付けておくようにしましょう。

成長期の怪我は、後々どんな影響を及ぼすかわかりません。子供が交通事故で怪我をした場合は、医師によく相談したうえで、今後の成長過程で影響が出る心配があれば、示談時の清算条項には必ず「後遺障害部分を除く」等の特筆事項を付けてもらうようにしましょう。
また、子供の後遺障害はとても複雑で難しいものです。どんな些細な怪我であってもきちんと病院にいき、医師と連携を図り、しっかりと治療をするようにしましょう。

5. 子供と大人で違う損害賠償

一般的な交通事故の慰謝料に加えて、子供の交通事故の場合には子供特有の損害費用が認められることがあります。以下のような費用です。

損害項目内容(支払認定基準)支払額
入院付添料・医師の指示や受傷の程度、受傷者の年齢により付添が必要な場合
・幼児や小学生の場合は付添
・職業付添人の場合 依頼費全額
・近親者の場合 日額6500円×日数
通院付添料・子供が一人で通院するのが困難な場合・日額3300円×日数
学習費・入院により進級や卒業が延びて余計に通学費がかかってしまった場合
・入院などにより学習塾や通信教育など学習の補填が必要になった場合
案件によって認められる金額が異なる
休業損害・交通事故によりアルバイト収入が減った場合
(※学生・生徒については原則支払はありませんが、アルバイトなどで生計を立てている場合認められることがあります)
・一日の基礎収入×休業期間
将来介護費・高次脳機能障害や遷延性意識障害など、一生涯にわたり介護が必要とされる場合・職業介護人
年額(1年間あたりの評価額)×症状固定時の平均余命に対するライプニッツ係数
・近親者
日額8000円×365日×平均余命に対するライプニッツ係数
将来雑費・重度の障害が残った場合で、それを補うためにかかる費用がある場合
(おむつ代・導尿カテーテルなど)
・将来再度手術が必要な場合
一日1500円×平均余命までの日数
※月額のカテーテル代を認めるなど支払われ方は様々
近親者の慰謝料・子供が事故によって死亡した場合
・死亡に劣らない程の障害が残った場合
案件によって認められる費用が異なる

これらは、後遺障害の慰謝料や逸失利益、その他治療にかかった費用、入通院慰謝料などとは別に支払いが認められる費用です。

条件に当てはまれば必ず認められるというわけではなく、同じ傷病名が付いていても後遺障害等級、怪我の症状の度合い、子供の年齢、事故当時の状況など、様々な要素によって支払の可否が判断されます。

表からもわかるように、子供の損害賠償請求では、厳しい支払基準が定められています。
逆に言えば、大人はある程度損害が確定できる状態ですから、ほとんどの場合、決まった額しか受け取れませんが、子供の場合は、支払基準に達していることやそれ以上にかかる費用があることが立証できれば将来部分の費用を高い金額でうけとれる可能性は多いにあるともいえます。

6. まとめ

今回は子供の交通事故について説明しました。
子供の交通事故は、大人の事故の場合とは異なり、保護者の監督責任や過失割合、後遺障害を負ってしまった場合には子供の将来の負担まで、頭を悩ませることがたくさんあります。
親は、子供を一生涯見届けることはできないので、せめて「子供の頃の事故が原因で…」という負の要素を子供の将来からできるだけ取り除きたいと思うのではないでしょうか。

子供は事故にあったことは一生涯忘れることはないでしょう。しかし、示談交渉によって金銭面においての負担を少なくすることは可能です。子供の負担を軽減するためにも保険会社や相手方から正しい金額で示談金を支払ってもらったり、生涯における補償を受けとれるようにしておくことが大切です。

子供の交通事故の損害賠償は非常に複雑ですし、状況の立証が大人に比べ大変です。
「相手方や保険会社からの言い分に納得がいかない」「示談金の提示を受けたがきちんとした支払内容であるか不安」というようなことがあれば、早めに弁護士に相談する事をお勧めします。

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