交通事故による脊髄損傷で受けられる慰謝料とは

交通事故の怪我で、身体的にも金銭的にも損害が大きいのが、脊髄損傷です。
脊髄損傷によって現れる後遺症の大半は、介護が必要になります。そして保険会社と交渉することも多くなり、内容も複雑です。
今回は、脊髄損傷で引き起こされる症状や、後遺障害申請に向けた手続き、将来的に必要になる費用の請求方法などについて詳しく解説します。

1. 脊髄損傷ってどんなもの?

脊椎損傷は、その名の通り、脊椎を損傷することです。
では、脊髄とはどこにあり、どのような役割をしているかご存知でしょうか。脊髄は、背骨の中に入っている白い紐状のものが束になっている器官で、脳と身体の各部をつないでいる中枢神経です。

脳からの運動信号は、この脊髄を通って身体の各部に伝わります。例えば手を動かそうと考えると、脳から「手を動かせ」という指令が出ます。この指令が運動信号として脊髄を伝わり、手に到達することで筋肉が収縮し、手が動きます。また、逆に手が何かに触れたり、熱さや冷たさを感じたりといった感覚の信号も、脊髄を通って脳へと伝わります。

交通事故で背骨に衝撃があると、中に入っている脊髄にも強い力が加わり、圧迫されて潰れたり裂けたりしてしまうことがあります。これを脊髄損傷といいます。
脊髄損傷になると、脳からの運動信号が身体へ伝わらないため、運動機能の障害や麻痺が起きます。身体から脳への感覚信号も伝わらなくなるため、感覚機能にも障害が出ます。
また、自律神経も損傷していれば、体温調節などの機能も失われることになります。
脊髄は脳から出て上から下に向かって流れているため、損傷した箇所より下の部分すべての神経伝達に異常をきたします。中枢神経なので、基本的には一度損傷すると修復や再生はできません。したがって、脊髄損傷によって起こった麻痺や障害は完治することはないといわれています。

診断書に書かれる傷病名は、損傷部位によって「頸髄損傷」「胸髄損傷」「中心脊髄損傷」などに細かく分かれていますが、これをすべてひっくるめて表したものが「脊髄損傷」です。
損傷の程度によって「完全損傷」と「不完全損傷」に分かれ、障害の度合いも異なります。

損傷の程度障害のレベル
完全損傷脊髄が完全に損傷したことにより各部位への伝達がうまくいかない状態。
損傷部位以下の機能は完全に麻痺する
不完全損傷脊髄が完全に損傷したわけではないが、損傷をしている状態。
麻痺を含む症状を発症する

また、一般に脊髄損傷と聞くと、下半身の麻痺で車いす生活のようなイメージがありますが、実際には様々な症状があります。
脊柱は頸椎(C1~8)・胸椎(T1~12)・腰椎(L1~5)・仙椎(S1~5)・尾椎という5つのグループに分けられていて、どの部位に損傷を受けたかによって症状が異なります。

  【頸椎損傷と考えられる症状】

損傷箇所症状器具と介護状況
C1~3呼吸器の麻痺
四肢の部分または全筋肉の麻痺が認められる
人工呼吸器がないと致死レベル
全介助レベル
C4~5横隔膜での呼吸運動のみ
首より上の運動機能は正常だが、首から下は麻痺
四肢麻痺
電動車いす
全介助レベル
C6~7
横隔膜での呼吸運動のみ
四肢麻痺があるが、肩やひじを動かすことができる
食事や別途上での動きは一部に制限される
電動車いす
平地であれ普通車いす駆動が可能
要介護レベル
C8~T1
脚・胴体の麻痺
腕や手を動かす筋力の低下
肩や肘などは正常に動かせる
普通車いすの駆動可能
T2~4
脚、胴体の麻痺
胴体の麻痺は胸より下の感覚喪失
肩や肘は正常に動かせる
体幹回旋はできない
普通車いすの駆動可能
T5~8
脚、胴体下部の麻痺
胸から下の感覚喪失
体幹回旋はできない
普通車いすの駆動可能
T9~11
脚の麻痺
へそより下の感覚麻痺
普通車いすの駆動可能
T12
股関節と足の麻痺及び感覚の消失長下肢装具とクラッチで歩行可能であるが、実用としては車いすが良い
L3~4
脚の筋力低下と痺れ短下肢装具と杖で歩行可能
S3-5会陰部のしびれ

同じ部位を損傷していても、これらの症状全てが出るわけではなく、症状の程度も違います。そのため、症状の度合いを判定する評価尺度が定められており、5段階に分かれます。
また、上記のような麻痺症状以外にも、全身に様々な合併症を引き起こすことがあります。

  【引き起こされる合併症】

障害範囲考えられる症状
循環器脈拍が遅くなる(徐脈)
立ち上がったときに貧血になる(起立性低血圧)
足が動かせないためにエコノミー症候群を引き起こしやすい(深部静脈血栓症)
消化器ストレス性胃潰瘍・十二指腸潰瘍・潰瘍穿孔などが起こっても痛みがないため手遅れになる可能性あり
胃腸の動きが悪いことから腸閉塞の危険性
泌尿器排尿排便機能障害
排尿排便機能が侵されることによる感染症(尿路感染症・敗血症)
皮膚寝返りが打てず、また痺れる感覚もないため、圧迫された部分が血行不良となり床ずれを起こす危険性
また冷たいとか寒いという感覚も麻痺部分は感じないため凍傷の恐れ
自立神経体温調節機能がうまく働かなくなる可能性
使わなくなった骨は、骨粗しょう症になりやすく、骨がもろくなるため、圧迫されたり負荷がかけられることにより簡単に骨折を引き起こす

2. 脊髄損傷を後遺障害と認定されるには

交通事故で脊髄損傷になってしまった場合には、後遺障害と認定されるかどうか、認定されるとしたらどの等級に認定されるかが重要です。
脊髄損傷で後遺障害と認定される場合の等級と認定基準は以下のとおりです。

等級認定内容(数字は号数を示す)
認定基準自賠責支払額
第1級
1 神経系統の機能又は、精神に著しい障害を残し、常に介護を要するものa 高度の四肢麻痺が認められるもの

b 高度の対麻痺が認められるもの

c 中程度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの

d 中程度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
4000万円
第2級1 神経系統の機能又は、精神に著しい障害を残し、随時介護を要するものa 中程度の四肢麻痺が認められるもの

b 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

c 中程度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
3000万円
第3級3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないものa 軽度の四肢麻痺が認められるもの

b 中程度の対麻痺が認められるもの
2219万円
第5級2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないものa 軽度の対麻痺が認られるもの

b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
1574万円
第7級4 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの一下肢の中程度の単麻痺が認められるもの1051万円
第9級10 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの一下肢の中程度の単麻痺が認められるもの616万円
第12級
13 局部に頑固な神経症状を残すものa 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの

b 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
224万円

これらの後遺障害等級認定は、交通事故で脊髄損傷になったことが前提です。事故前から障害があった場合には、既存障害と事故後の加重障害をそれぞれ認定して差額が支払われることになります。

後遺障害の申請には、後遺障害診断書をはじめとした多くの資料提出が必要になります。また、より有利な後遺障害等級を認定されるために、介護を行う人が日々の状況を記した陳述書などを補足資料として提出した方がいい場合もあります。

申請書類は、被害者自身が介護を受けながら準備することもあれば、家族が介護しながら本人に代わって準備することもあるでしょう。いずれにせよ、慣れない介護をともなう生活をおくりながら申請準備を進めるのは大きな負担となります。捕捉資料の提出を検討することになれば、後遺障害等級の認定のためにどういった資料を用意するかなど、知識や判断を求められることも増えてきます。
安心して任せられる弁護士を早めに見つけて依頼できれば、負担を最小限に抑えることができます。

3. 脊髄損傷の診断方法

後遺障害の申請において、最も重要な提出資料といえるのが後遺障害診断書です。不利な等級認定を受けてしまわないために、医師の所見を詳細に書いてもらう必要があります。
また、医師に正確な診断をしてもらうことも重要です。症状をきちんと医師に伝えていないと、障害の程度を正しく把握することができず、実際よりも低い後遺障害等級として認定されてしまうことにつながってしまいます。事故後、まだ症状がはっきりしないときでも自覚できる範囲で医師に症状を伝えるようにしましょう。そうして、なるべく早めに検査を受けることが大切です。

主となる検査方法は

①画像診断
②神経学的検査
③電気生物学検査

の3つです。

特に重要なのが①の画像診断です。
MRI や CT などの画像を使って、どの位置の脊髄が損傷しているかを確認します。診断には高位診断と横断位診断という2つの診断方法が必要とされています。

高位診断では、脊髄のどの位置を損傷しているかを調べます。これは、損傷を受けた箇所によって症状が出る部位がわかるため、背骨の上から数えて何番目の部分の脊髄を損傷しているのかを確認します。また、画像所見に加え臨床所見も合わせて診断がなされます。

横断位診断は、脊髄の損傷の程度を調べます。高位診断で確認した損傷箇所がどれくらいダメージを受けているかの診断です。全面が損傷したのか、半分だけが損傷したのか、といった損傷範囲によって出現する症状が異なるためです。
全面が損傷した場合は、受傷した部位から下位の全てに感覚脱失や知覚鈍麻が現れます。これは運動麻痺と同じ範囲に生じるといわれています。
半分だけ損傷した場合は、損傷した片側の受傷した位置より下位の全てに運動障害及び感覚障害、温痛障害が生じるとされています。「左半身不随」や「右半身麻痺」という言葉は聞き覚えがあるのではないかと思います。損傷の程度によってはそういった障害があらわれます。

②の神経学的検査では、画像ではわからない損傷がないかを補足的に調べる検査です。神経根と呼ばれる脊髄から枝分かれしている神経の損傷がないかを調べるのに有効です。
上肢の体幹・下肢の知覚障害の有無、筋力の麻痺の有無と範囲、腱反射の異常がないか、膀胱や肛門括約筋機能の動きなどを調べることにより、どの程度の損傷が起こっているかを調べます。

③の電気生物学検査も、画像診断の補足として行われます。
人間の体は脳から発せられる電気信号によって神経運動がなされますが、これが正常に行われているかを脳や脊髄の誘発電位検査や筋電図検査を使うことによって診断します。
筋電図検査は、それが末梢神経からくるものなのか脊髄の損傷からくるものなのかを見分けるのに役立ちます。

上記のような検査してもらった上で、後遺障害診断書には画像から読み取れる所見や神経学的検査の結果を事細かに書いてもらうようにしましょう。
脊髄損傷の後遺障害認定は、症状の高低や、どの程度の介護が必要になるかなどによって、認められる等級が左右されます。後遺障害等級によって金額にも大きな差があるため、詳しい検査を受けて正確な診断書を書いてもらうことは重要です。

4. 将来の介護費は請求できるの?

脊髄損傷は、部位や程度によって介護が必要になります。「1.脊髄損傷ってどんなもの?」で解説した損傷箇所以上であった場合には常時介護が必要です。その他の部位の損傷であっても、排泄機能に障害を伴う場合など、何かしらの介護が必要になることが多いといえます。
介護による家族への負担は大きく、介護疲れなどの身体的負担に加え、介護のために仕事を制限されることなどによる精神的な負担もあります。それだけではなく、病院に入院したり、介助人を手配したりといった金銭面での負担も大きくなります。

また、現時点では脊髄の損傷を根本的に修復する方法は確立されておらず、完治の見込みはないといわれています。脊髄損傷になると生涯にわたって介護が必要となるのです。そのため、介護に伴う費用も将来にわたり継続的に必要になっていきます。
そういった、これからかかるであろう介護費用を「将来介護費用」といいます。

将来介護費用は、事故に遭わなければかからなかったお金です。したがって、その他の損害費用と同様に、将来介護費用の請求も認められる可能性があります。
金額については、後遺障害の内容や程度、介護をする親族の有無、就労状況などが考慮されますが、原則としては以下の計算式で求められます。

【年額(1年間あたりの評価額)× 症状固定時の平均余命に対するライプニッツ係数】

例として、18歳の少年がバイク事故によって脊髄損傷を負ってしまったケースで解説します。

外部に介護を頼んだ場合、一月あたりの訪問看護費は約9万円程度とされています。
18歳の平均余命は63.30年とされているので、これに対するライプニッツ係数は 19.0751 です。
これを計算式に当てはめると、以下のとおりです。

9万円 × 12か月 × 19.0751 = 2060万1108円

この金額が、将来介護費として算出されます。

近親者が介護する場合は、日額8000円が基準とされています。しかし、介護の程度や介護時間などが加味され、それ以上に支払われることもあります。
近親者の介護の場合で計算すると以下のとおりです。

8000円 × 365日 × 19.0751 = 5569万9292円

ただし、これらは状況によって支払われる額は異なります。従来は一括で支払われるケースがほとんどでしたが、税金の改正などにより賃金水準の変動があり得るため、近年では分割して定期的に支払われる場合もあります。
また、介護費だけではなく、定期的な検査が必要であったり、合併症を引き起こしたりと、後から新たな医療費が必要になることもあります。そういった費用についても、追加で支払われる可能性があるので諦めずに請求しましょう。

将来介護費など、後から費用を請求する際に一つ注意しなければならないことがあります。それは示談書の「清算条項」という項目です。清算条項とは、示談書に記載されたもの以外に何らの請求権も存在しないことを確認する条項です。
通常の事故ではこの清算条項を入れるのが一般的です。慰謝料や逸失利益など、全ての請求をしないと解決にならないからです。しかし、脊髄損傷のように将来的に発生する費用が見込まれる場合に清算条項を入れて示談してしまうと、そのときに払ってもらった以外のお金を今後受け取ることができなくなってしまいます。そうならないためには、例えば「将来介護費については別途検討する」といったような文言を示談書に書いておく必要があります。

将来介護費や将来治療費については、まだ明確な基準が定まっていません。裁判でも一例ごとに結論が大きく異なることがあり、算定の根拠も案件によってまちまちといった状況です。
将来的な費用が発生しそうな場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

5. 脊髄損傷で家のリフォーム費用はもらえる?

脊髄損傷という障害を負うと、それまで生活していた世界が一変してとても不便なことが多くなります。
例えば、四肢麻痺の場合は車いす生活を余儀なくされるので、トイレや浴室を車いすで入れるように作り変えなくてはなりません。他にも居室の改造などを行なって、家をバリアフリー仕様にリフォームしなくてはならないことがあります。

これらにかかる費用も基本的には保険会社や相手方から支払ってもらうことが可能です。リフォームだけで済む場合、費用については障害の程度や生活環境を考慮して相当である額が支払われます。
また、住宅が古いなどの関係でリフォームに適さず、新たに介護住宅を立て直すことになった場合、通常住宅の新築費用と介護住宅の新築費用の差額のみ支払われることもあります。
介護住宅へ転居する場合は、転居費用が支払われます。また、転居後に家賃が高くなる場合には差額が支払われることになります。

いずれにせよ、今の住宅では生活に支障があるということを、相手方の保険会社に提示する必要があります。そのため、保険会社から住宅の図面を見せて欲しいとか、住宅自体を見たいとかいわれることもありますが、素直に応じておいたほうが無難だといえます。

また、車いすでは通常の車に乗れないということもあるため、介護自動車についても住宅と同様に費用請求が可能です。持っていた自動車を改造する場合の改造費用や、介護用自動車を新たに購入した場合の普通自動車との差額が、損害として認められます。

6. まとめ

今回は脊髄損傷について説明しました。
脊髄損傷の場合、他の怪我と違い、将来介護費や手術費、住宅改造費など、将来かかるであろう費用がダントツに多くなります。

清算条項についての説明でも述べたように、一度示談が成立してしまうと基本的には示談で定めた以外の費用を再請求することはできません。したがって、想定されるあらゆる費用をあらかじめ請求しておくか、後から別途請求できる条件にするかして示談をする必要があり、示談書の内容を法律的にチェックしなければなりません。

また、介護などで家族が負担を強いられることも多くあります。介護負担の軽減や当事者の今後の生活に向けたリハビリ時間をより多く確保するためにも、交通事故による脊髄損傷と診断されたら早めに弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士であれば、事故直後から保険会社対応の窓口となることができます。さらに、将来費用の請求や、示談後に不利が発生しないような交渉など、優位に示談を進めることが可能です。

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