あおり運転にあったらどうすればいい?

東名高速道路での夫婦死亡事故は、あおり運転の危険性について多くの人が認識するきっかけとなりました。
小さなきっかけが、人の命を奪うまでに発展してしまうあおり運転。
そもそもあおり運転とはどういったものなのか、あおり運転にあった際にどうすべきなのか、また、加害者の罰則規定について説明いたします。

あおり運転のイメージ

1. あおり運転とは

あおり運転とは、一般的に、前方を走行する車に対して進路を譲るように強要する行為を指します。
車間距離を異常に詰めたり、幅寄ししたり、ハイビームを点滅させパッシングしたり、クラクションを必要以上に鳴らすなどして、相手を威嚇したり、嫌がらせをしたりする行為のすべてがあおり運転とみなされます。
「あおり運転」という言葉自体は法律用語でもありませんし、道路交通法上の定義というわけでもありません。

2017年6月の東名高速道路での夫婦死亡事故をきっかけに広く注目されるようになり、あおり運転をする人やその行為を指し示す「ロード・レイジ」という言葉も世の中で認識されるようになりました。
日本では近年になって社会問題の一端としてようやく認識されはじめたあおり運転ですが、ここ数年で起こるようになった問題というわけではなく、欧米では半世紀も前から絶えず問題視されている行為です。

2. あおり運転の実情

あおり運転が社会問題であると世の中の意識を変えさせたのは、2017年6月の東名高速道路での夫婦死亡という痛ましい事故でした。事件の発端は、パーキングエリアで駐車スペースからはみ出して駐車していた加害者に「邪魔だ」とひとこと言っただけです。
加害者は過失致運転死傷罪で逮捕されましたが、過失運転致死よりも重い罪に問われる危険運転致死傷罪で起訴されました。加害者側は危険運転致死傷罪については無罪を求めていく方針で、今年の12月3日に初公判が行われます。

そのわずか1年後には、バイクに乗っていた大学生が、追い抜いた車両の運転手に腹を立てられ、執拗に追いかけられ、後ろから100kmで追突され、殺害されるという事件が起こりました。
これも単に1台の車を追い抜いただけ、ただ、それだけの行為がきっかけとなっています。

このように、あおり運転は本当に些細なことがきっかけとなり起こってしまうことが大半です。
チューリッヒ保険会社が2018年5月にドライバー2230人に対し行った調査では、約7割の人が煽り運転を経験したことがあると回答しています。
実際にどのようなことをされたかという回答には

  • 書体を接近させられてもっと早く走るよう挑発された 78.5%
  • 車体を接近させて、幅寄せされた          21.0%
  • 必要のないハイビームをされた           19.8%
  • 執拗にクラクションを鳴らされた          15.5%
  • 不必要な急ブレーキをかけられた          14.3%

といったものが挙げられていました。
また、あおり運転をされたきっかけとしてあげられたものには、

  • 車線変更をした
  • 追い越し車線を走り続けた
  • 追い越しをした
  • 法定速度を守って走っていた
  • スピードが遅かった

というどれも車を運転したことがあればやったことがあるような行為が挙げられています。
ここからもわかる通り、普通に運転していたとしても、あおられてしまう可能性は十分にあることがわかります。

東名高速での事故を受け、2018年1月16日付けで警視庁から全国警察署に向けて、あおり運転の取締強化の通達を出しました。通達によって変わったこと、加害者に対する罰則については、「5. 加害者に対する罰則規定」でご説明いたします。

3. あおり運転から自分を守るために

怒りや感情の起伏から引き起こされるあおり運転ですが、どんなに注意して運転していても、あおられてしまう可能性はなくなりません。警察も厳罰化に動きだしていますが、厳罰化されたとしても完全に根絶できるわけではないので、巻き込まれてしまった時の行動を確認しておくことが必要です。

あおり運転に遭った場合には、こちらも気分を害しているとは思いますが、感情のままに行動しても加害者の感情にさらに火をつけることにしかなりませんし、やりかえしたところで自分が犯罪を犯すことにしかなりません。そういった点から、まずは、あおられても決してやってはいけないことから説明します。
あおり運転にあった場合に絶対にしてはいけないことは以下のような行為です。

あおり返し
「相手が先にやったから」という言い訳は警察に通用しません。あおりかえした行為自体も犯罪ですので、こちらにも過失があったとみられてしまいます。
また、あおり返したところで相手を逆なでするだけです。逆上して更なる迷惑行為を被ることも考えられますから、絶対にやめましょう。

クラクションを鳴らす
抗議の意味を込めてやってしまいがちな行動が、クラクションを鳴らす行為です。
道路交通法54条2項では「車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。」
と定められています。
ここでいう「危険防止のため」というのは、車両に気がつかず、飛び出して来た子供に危険を知らせるためとか、直前に迫った危険を警告するために使うことを指しているため、あおられたことに対しての抗議のクラクションを鳴らし続けるという行為は違反行為とされてしまいます。
違反行為とされた場合、2万円の罰金または科料を求められます。

急停車する
停車中後ろから衝突された場合、衝突して来た車に対して、基本的には10割の過失が認められます。これは前方の車が危険回避のため急停車したところに突っ込んでも基本的には同じです。
しかし、あおり運転をされたことに対して、邪魔してやろうとか、困らせてやろうという理由で行った急停車により起こった事故については、危険回避等の正当な理由が無いとみなされ、停止した側にも2割から3割の過失割合がついてしまう可能性があります。

後ろからの執拗までの威圧にこちらも応戦したくなる気持ちはわかりますし、ハイビーム等で自分の運転が危険にさらされることがあるかと思います。しかし、仕返しをしたことによって自分に過失がついてしまったら元も子もないので、仕返しのための急停車は絶対にやってはいけません。
ハイビームなどで視野が遮られ、危険であるのであれば、急停車するのではなく、減速をするなどしてやり過ごしましょう。

相手を挑発するような言動や行動
相手のあおり運転に対して腹が立った場合、車の中からなら安全だと思って、窓を開けて、相手に対して暴言や挑発的な言葉を言う人もいますが、これもやめましょう。
相手の感情を逆なでするだけですし、窓が開いたをいいことに暴力を振られることもあります。

また、車の中の行動は見えていないと思って中指を立てたり、相手の写真を撮ったりする方もいますが、案外運転席からは相手の行動が見えているものです。証拠のための写真を撮るのは構わないですが、必要以上に写真を撮ったり、中指をたてるのはやめましょう。

ここまであおり運転にあった場合、絶対にやってはいけないことを説明しました。
では、あおられた場合、どのように対処するのが適切なのでしょうか。

一番の対策は、あおって来る人の挑発に乗らず、無視することです。
あおって来る人は、気に食わなかったからとかおちょくりたいがためにあおるわけですから、相手をしてくれない人は面白くないわけです。あおられてるなと思ったら、挑発に乗らず平常運転を心がけましょう。

それでも執拗に追いかけて来るモンスタードライバーはいます。そういった場合は、一時停車できる場所がある場合は、一時停車をしてやり過ごしましょう
ただし、一時停車してしまった場合、場所や相手によっては、相手も停車し、車から降りてきて、怒鳴り込んでくることもあります。怒鳴り込んでくるような場合には、すぐにドアのロックをし、窓も開けず警察に通報し、その場で待ちましょう。

また、そういった行為に遭ってしまった場合には、相手のナンバープレートを覚えておくようにしましょう。その場で警察が呼べれば一番いいのですが、どういった状況であおり運転に遭遇するかわかりません。どんな車だったか、どういう人相の人かもわかる範囲でいいので覚えておくことも大切です。
車に傷をつけられてしまったが、相手に逃げられてしまったというような場合、相手方がわからなければ、自腹で修理を行わなくてはなりません。しかし相手のナンバープレートや人相を覚えていた場合、加害者への特定に役立ちます。加害者が特定できた場合、損害賠償をその人にすることも可能です。

4. ドライブレコーダーの必要性

日本ではまだ、15%程度しか使用がされていないといわれているドライブレコーダーですが、あおり運転による事故に巻き込まれた際には重要な役割をします。

これまでのあおり運転による事故のほとんどは、映像が無かったためにどのようにして起こったもので、故意であったのかどうかを見極める決定的な証拠が何一つない状況でした。そのため、警察も注意をする程度や罰金を支払わせる程度で逮捕まではこぎつけられないことがほとんでした。また、加害者に逃げられてしまえば、被害者は泣き寝入りするしかありませんでした。

2005年頃から日本でもドライブレコーダーが取り入れられるようになり、少ないながらも徐々に導入する人が増えました。
東名高速道路の事故はドライブレコーダーにより、事故の一部始終が映像と音声で残されていたため、加害者が最初に証言していたことが虚偽の証言であることがわかり、逮捕へとつながりました。
また、2018年7月に大阪府堺市で起こった大学生のバイク死亡事故では、加害者車両についていたドライブレコーダーに「はい、終わり」などといった音声とあおり運転の一部始終が残っていたために、殺意があって追突したとみなされ、あおり運転の事件としては初めて加害者が殺人罪で起訴されることになりました。
どちらも映像が残っていたからこそ逮捕することができたのです。

ドライブレコーダーをつけていれば、映像や音声が残るだけでなく、つけていることが相手にも分かれば、あおり運転の抑止力につながります。
自分の身を守るためにもドライブレコーダーをつけることをお勧めします

5. あおり運転の加害者に対する罰則規定

東名高速道路での事件を受け、警察も重い腰を上げ、2018年1月16日に全国の警察に対し、あおり運転の取り締まり強化・厳罰化を通達しました。
これにより、あおり運転によって事故が起きていなくとも、その違反行為の重さによって、30~180日の免許停止が可能になりました。免許停止は通常であれば、違反点数が6点を超えた際に行われますが、この通達により悪質なあおり運転の場合には、過去の違反点数の累積に関係なく、一発で免停とすることが可能となりました。

あおり運転は、危険運転を総称した言葉ですので、「あおり運転」というものに対する罰則は設けられていませんが、その危険行為1つ1つに対して処罰が科されます。
あおり運転により科せられる主な罰則は以下の4つです。

車間距離保持義務違反
あおり運転の中で最も適応される率が高いのが、この「車間距離保持義務違反」です。
道路交通法第二十六条に定められる規定で、前方車両と運転中に急停車した時の追突を避けることができる適切な距離の保持ができていない、すなわち車間距離が近すぎる場合に適応される罰則です。
一般道と高速道路での罰則規定は異なり、

  • 一般道では5万円以下の罰金
  • 高速道路では3か月以下の懲役または5万円以下の罰金

が科せられます。

過失運転致死傷罪
運転中に必要とされる注意を怠り、その結果、相手を死傷させた場合に適応される刑罰です。
必要のない急ブレーキや、悪質な幅寄せがきっかけで相手が怪我した場合などがこれにあたります。
7年以下の懲役、もしくは10万円以下の罰金が科されます。
あくまでこの罪は死傷させた原因が注意義務を怠ったものとされるものですので、車を停車させ、「降りてこい!」と言ったり、直接怪我を加えたものは、さらに傷害罪などの罪に問われる可能性があります。

危険運転致死傷罪
人または車の進行を妨害する目的で、走行中の自動車の前に入り交通の妨げとなる行為したり、危険な速度で運転した結果、相手を死傷させるに至った場合に適応される罰則になります。
交通違反に対する罰則規定の中で一番厳しい罰則で、相手を負傷させた場合には3年以下の懲役、相手を死亡させた場合には1年以上20年以下の懲役刑が科せられます。
罰金規定の定めはなく、刑務所での拘束を逃れることはできない刑罰です。懲役刑が必ずついてしまう刑罰であるため、今回の東名高速道路での死亡事故もこれに当てはまるか否かについて裁判が繰り広げられることとなります。

暴行罪 
暴行罪と聞くと、誰かを殴ったり蹴ったりする行為に対してとられる刑罰と思われがちですが、車を蛇行運転させたり、車間を執拗にあけたり詰めたりさせる嫌がらせ行為もこれにあたる場合があります。
実際に2018年4月に愛媛で起こった蛇行運転に対して、この刑罰の適応が認められています。

この刑罰では、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます

これらの刑罰は警察に通報することで初めて使えるようになります。
あおり運転を見かけたら、事故にあっていないからいいやではなく、必ず警察に通報するようにしましょう。

6. まとめ

安全運転をしていても小さなきっかけで、あおり運転に巻き込まれる可能性があります。
あおり運転に巻き込まれてしまった場合には、あおり返さない、ドアや窓を開けないということに注意して、落ち着いて運転し、警察に通報をするようにしましょう。
また、あおり運転を抑止するためにも、自分の身を守るためにもドライブレコーダーをつけることも大切です。

あおり運転は自分も他人も危険にさらす行為です。
どんなにムッとする運転をされても危険行為を相手にすることは絶対にやめましょう。

また、あおり運転の被害に遭った場合には、警察だけでなく、弁護士に相談することもよいでしょう。相手が厄介な人の場合が多いですから、損害の交渉を弁護士にしてもらうことをお勧めします。

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