交通事故の損害賠償基準に男女差はあるの?

女性蔑視の排除を目的とするMetoo運動など、世界的に男女平等を求める動きが盛んです。
交通事故の損害賠償基準においても、性別による差はあるのでしょうか。
性別によって変わる後遺障害の認定基準や支払基準について詳しくご説明いたします。

1. 性別によって後遺障害は違う?

後遺障害とは、交通事故で受けた負傷で、治療をしても完治せず、生活に支障をきたす症状が残るものを指します。
後遺障害であるかどうかは自賠責調査事務所が判断し、残存する症状の重さによって14級~1級までの等級に分けて認定されます。

交通事故での後遺障害というと、首のむち打ち症による手のしびれや脊髄損傷による両下肢の麻痺など、運動機能や神経に障害をきたすものだというイメージが強いと思います。
しかし、後遺障害は運動機能や神経に障害をきたすものだけではなく、見た目に障害をきたすものにも認定されます。

見た目についての後遺障害を、「外貌醜状」(がいぼうしゅうじょう)といいます。
外貌醜状とは、顔や首など人から常に見える場所にできた傷を指します。
傷といっても状態は様々で、やけど等によってできる瘢痕(ケロイド)、切り傷などでできた線状痕、大きく皮膚がえぐられてしまったときにできる組織陥没の傷痕などが後遺障害になります。
簡単にいえば、見た目が変わることで人の印象や対人関係に影響するほどの傷に対して認められる損害です。

見た目への影響による後遺障害というと、女性や接客業の人は認められやすいのではないかと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実際に、平成22年6月9日までの事故に適応される後遺障害の認定基準では、男女の認定に大きな差がありました。これは、顔に傷ができた場合、女性のほうが損害を受けやすく精神的苦痛が大きいという認識によるものです。
たとえば、顔に手のひら大(約5~10cm)の大きさの傷が残ったとします。後遺障害として等級が認定された場合、男性は「男子の外貌に著しい醜状を残すもの」として12級、女性は「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」として7級が認定されていました。
「外貌に著しい醜状残すもの」という同じ障害にもかかわらず、認定される等級は5等級も違っていたのです。

後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料という損害賠償費用を受け取れます。後遺障害による身体的、金銭的負担に対して支払われる慰謝料です。
後遺障害慰謝料は等級が高ければ支払われる金額も高くなるので、12級と7級では金額に大きな差があります。
12級の場合、自賠責からの支払い金額は224万円、これに対し7級の場合は1051万円が支払われます。両者の間には、827万円という格差があります。

平成22年6月9日までに発生した事故については、以下の基準で認定が行われます。

【平成18年4月1日以降平成22年6月9日までの事故の認定基準】

 
認定要件男性女性
外貌に著しい醜状を残すもの12級14号7級12号
外貌に醜状を残すもの14級10号12級15号


しかし、あまりにも認定格差がありすぎるとして、これは「性別的差別であり、憲法14条違反である」という訴えが起こされました。そしてその結果、憲法違反であるという判決がくだされ、認定基準は改正されました。平成22年6月10日以降は、男性も女性も同じ基準で後遺障害が認められるようになったのです。

【平成22年6月10日から現在までの事故の認定基準】

 
認定要件障害の程度男性女性
外貌に著しい醜状を残すもの
a. 頭部のてのひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損

b. 顔面部の鶏卵大以上の瘢痕または、10円銅貨大以上組織陥没

c. 頸部のてのひら大以上の瘢痕
7級12号
7級12号
外貌に相当程度の醜状を残すもの
顔面に残った5cm以上の線状痕
9級16号
9級16号
外貌に醜状を残すもの
a. 頭部の鶏卵状大以上の瘢痕、または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損

b. 顔面部の10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3cm以上の線状痕

c. 頸部の鶏卵大以上の瘢痕
12級14号
12級14号


このように、今では性別によって後遺障害の等級が異なることはありません。
ただし、改正された認定基準が適用されるのは平成22年6月10日以降に起こった事故に限られます。それよりも前に起こった事故については、現在でも古い基準で認定されることになります。

2. 逸失利益においても性別の違いはあるの?

後遺障害の認定に関しては、今は男女による差はないということがわかっていただけたかと思います。
では、逸失利益に関してはどうでしょうか?
逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が低下してしまったことで被る損失に対する損害賠償費用のことです。簡単に言えば、受け取れる給与が低くなることへの補てん費用です。

逸失利益は、「年給与×労働能力喪失率(等級に応じて)×ライプニッツ係数(年金現価係数)」の計算式によって算出されます。
そのため、後遺障害等級と当事者の年給与によって金額は大きく左右されます。

年給与は、会社員で年収700万円の人は年給与は700万円で計算されますし、アルバイトで生計を立てている人で年収200万円ということであれば、年給与は200万円で計算されます。
年給与が関係すると聞くと、勤め人でない主婦などは認められないのではないかと思われがちです。しかし、交通事故の損害賠償額においては、会社で働いていない人、つまり家事労働をしている主婦や年金暮らし、無職者などに対しても、会社勤めの人と同様に逸失利益が発生するとされます。そのため、逸失利益が支払われないことはありません。

勤め人でない人の年給与は、事故によって主婦や無職になった場合は前年度の収入を年給与とします。事故以前も主婦や無職であった場合は、「賃金センサス」という厚生労働省政策統括官「賃金構造基本統計調査」により算出された全国の平均年収の基準を使用します。

例として、以下のケースの年給与がいくらと扱われるのかを考えてみます。

・22歳
・大学生
・大学卒業後は働く予定
・ムチウチによる後遺障害が残った

この場合、就職前なので収入はバイト代程度です。バイト代も生活費というよりはお小遣い程度のものと考えられます。このような生活費ではない収入は年給与の対象とはされません。今後受け取っていくと考えられる賃金を年給与として計算します。

大学生の場合、学部によって就職先の業界がある程度決まっていれば、その業界の平均給与で算出されます。すでに就職先が決まっていたという場合には、就職先で予定される収入を年給与とする場合もあります。
しかし、多くの場合では今後どんな職業に就くか特定することは困難です。そのため、賃金センサスの大卒の収入平均計を使うことが一般的になっています。

平成28年の基準でみると、男性は662万1000円、女性は457万2300円が年収額となります。
男女で204万8700円もの差があることになります。これは男女差別にはならないのでしょうか。

逸失利益の計算のための年給与基準額としては、男女の平均年収は一般的に異なること、男性女性それぞれの平均をとっているので計算の根拠としては問題ないと考えられることなどから、男女統一はされていません
男女で金額が違っていても、既に仕事をしている人であれば、その年収入が算定基礎となっているので男女によって不公平ということにはなりません。実際の収入を元にしているからです。そういう考え方を元にして、大学生などの年収を特定することができない人について考えると、統計上の金額を年給与として計算する以外に決めようがなく、妥当であるといえます。
女性の社会進出が発展途上である日本では、男性との収入格差から逸失利益にも大きな金額の差を生んでいます。

3. 休業損害は主婦だと損する?主夫はどうなる?


逸失利益の計算では、女性の方が男性に比べて平均年収が低いことから、男性と女性の間に大きな差があるのが現状です。
では、女性が得するところはあるのでしょうか?

得というと語弊がありますが、きっちり認めてもらえるものとして主婦の休業損害というものがあります。休業損害とは、会社を休んだために貰えなかった給与の補償です。
家事をこなすことは労働であると認められているため、主婦であっても実際に病院に通院した日数は日々の労働に対して損害を被っていると考えられ、「年収÷365日×通院実日数」で休業損害を請求することができます。
年収の算出については、「賃金センサス」の女性学歴計を年収とします。家事労働は、何にどのくらいのお金が発生しているか計算するのは難しいので、働いている女性の全年代の収入から平均したものを年給与として計算します。
平成28年の基準でいえば、主婦の場合は376万2300円を年給与とすることが可能です。主婦だからといって会社勤めの人と請求できるものに差はありません。

では、同じように家事労働をする男性、つまり主夫の場合はどうでしょうか?
主夫の場合も家事従事者として認められますから、もちろん休業損害は認められます。しかし、主夫の場合は年収入の算定に注意が必要です。それは、男性であっても女性の学歴計を基準として算出されることが多いからです。
主婦と同じように、全年代の収入から平均したものを年収入とするのであれば、主夫の場合は男性の学歴計で算出するということになるはずです。仮に男性の学歴計を年給与とした場合は、549万4300円が認められることになります。しかし、実際に休業損害を計算するときは、主夫の場合も女性が働いて稼ぐ金額と同じ基準で問題ないとされています。
そのため、男性が家事従事者であっても女性の学歴計である376万2300円が年給与採用され、逸失利益の計算がされることになります。
女性と男性が同じ金額基準で算定されるので男女平等といえますが、これはこれで主夫の男性としてはなんとなく損した気分になるのかもしれません。

4. まとめ

男性と女性で示談金に差はあるのかについて説明してきました。
後遺障害等級については、認定基準の変更により男女の差はなくなりましたが、逸失利益や休業損害に関しては、性別による収入金額の格差から補償される金額の差は未だに存在します。
男女平等という観点で考えるなら、男女を含めた収入の平均から同じ金額で算定されるべきだということになります。現状の基準をかえていくのは簡単なことではありません。

しかし、個別の事例でみれば、年給与の算出に関しても本来これだけ稼げるはずという明確な理由や証拠があれば、賃金センサスの金額よりも自分の状況にあった金額で請求することはできます。
自分の逸失利益や休業損害が適正な金額で算定されていないと感じた場合には、弁護士に相談し、適正な金額を保険会社へ請求することをお勧めします。

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