ひき逃げにあったら、被害者は泣き寝入り?

最近ニュースで話題の「ひき逃げ」
交通事故の中で最も悪質な事故です。何年たってもひき逃げの事件は後を絶ちません。
もし自分がひき逃げの被害に遭ってしまったらどのように対処すべきかご説明いたします。

ひき逃げした車のイメージ

1. ひき逃げされた?その場で対処すべきこととは

交通事故には誰でも遭遇したくないものですが、その中で最悪なのが「ひき逃げ」です。
先日も連日のようにひき逃げのニュースが話題となっていましたが、実際にどれだけのひき逃げ事故が毎年起こっているかご存知でしょうか?
内閣府が警視庁の資料を基に算出しているひき逃げ件数の推移は以下の通りです。

【ひき逃げ事件の発生・検挙状況】

平成24年平成25年平成26年平成27年平成28年
死亡発生170156153150147
検挙167144156146148
検挙率98.292.3102.097.3100.7
重傷発生14121264119711931133
検挙765681675618664
検挙率54.253.956.451.858.6
軽傷発生1887817614167141565314858
検挙82317486732770126676
検挙率43.642.543.844.844.9
合計発生2046019034180641699616138
検挙91638311815877767488
検挙率44.843.745.245.846.4

             ※【出典】内閣府平成28年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現状

これを見ると、全国で発生するひき逃げは年々減少の一途をたどっていることが伺えます。平成28年度の件数は16,138件と平成24年度が20,460件であったのに比べるとだいぶへ減っていることからも明らかです。
ただ、平成28年の全国の交通事故件数は49万9201件とのことですから、ひき逃げの件数が占める割合は意外に多く、人ごとではないということがわかっていただけるかと思います。

では、実際ひき逃げに遭ってしまった場合、どういった対応が必要なのでしょうか?

まず、とっさのことで難しいとは思いますが、できるだけひき逃げをした車の特徴と車両ナンバーを確認し、どこかに控えておきましょう。
先ほどの表を見ていただいてわかるように、検挙率は毎年45%前後と半分も満たない件数しか検挙されていません。これは加害者の情報がわからない場合が多いからです。
防犯カメラや車両ナンバー認識システムがあるから、どこかに情報が残っているのでは?と思われる方もいらっしゃると思いますが、防犯カメラが無い道もありますし、防犯カメラがあっても車両番号までわからない場合もあります。
車両ナンバーは運輸局に登録されていますので、車両ナンバーさえわかれば、その車両が誰の持ち物であるかを確認することができ、犯人の検挙につながるのです。

次に、警察と救急車の出動要請をしましょう。
周囲にいる目撃者が警察や消防署へ連絡してくれるのが一番良いですが、いつ、どこでひき逃げをされるかわかりません。周囲に人がいない場合、できるだけ早くに警察や消防署に連絡をしましょう。通常の事故の時と同様、多少の怪我であっても救急車を呼んでおいたほうが無難です。

また、自分が動ける場合には、警察を待つ間できるだけ目撃者を集めておきましょう。
ひき逃げをされ、自分が怪我している場合が多いかと思います。自分で車両ナンバーを覚えていればいいですが、実際、怪我をしていて気も動転しているため、状況をつかめないことが多いです。現場の状況とひき逃げをした車両についての情報が少しでも多いほうが、警察が加害者を特定する際に役に立ちます。できるだけその場にいた目撃者を確保しておきましょう。

2. 被害者は泣き寝入り?損害の請求先

後日、加害者が判明すればいいのですが、年間の約半数のひき逃げ事件は、加害者が不明のままです。
通常の交通事故であれば、加害者の任意保険や自賠責保険にかかった治療費等、損害の請求すれば良い話ですが、ひき逃げで加害者不明の場合は、加害者がわからない状態ですので、加害者の任意保険や自賠責保険を利用することができません。では、損害の請求はどこにすることになるのでしょうか?

請求の方法は大きく分けて2つがあります。

1つ目は、政府保障事業という制度を使って損害の補てんするという方法です。
政府保障事業とは、ひき逃げや無保険者被害者を救済する制度です。
政府保障事業では、健康保険や労災保険といった社会保険の給付や加害者からの支払では賄えなかった費用を政府が法定金額の限度内で補てんしてくれるという制度です。自賠責保険の金額を基準に支払がなされます。
請求ができるのは、被害者もしくは、被害者が死亡している場合は法定相続人および遺族慰謝料請求権者のみで、加害者側からの請求はできません。また、政府が補てんした金額は、のちに政府から加害者に対し請求がなされます。
保障の対象は「傷害」「後遺障害」「死亡」の3つの区分の分けられ、請求が可能な期間は以下表の通りになります。また事故発生日によって時効の完成日が異なります。

(1)事故発生日が平成22年4月1日以降の場合

請求区分いつからいつまで(時効完成日)
傷害治療を終えた日事故発生日から3年以内
後遺障害症状固定症状固定日から3年以内
死亡死亡日死亡日から3年以内

(2)事故発生日が平成22年3月31日以前の場合

請求区分いつからいつまで(時効完成日)
傷害治療を終えた日事故発生日から2年以内
後遺障害症状固定症状固定日から2年以内
死亡死亡日死亡日から2年以内
 

請求に必要な基礎的な書類は以下表のになります。◎印は必ず必要な資料、○印は必要に応じて提出が必要となる書類です。未成年者の事故の場合や被害者死亡による遺族からの請求に関しましては、別途資料が必要になりますので政府保障事業を使用したい場合には、請求の受付窓口となる各損害保険会社に一度問合せをしましょう。
損害保険会社に問合せをすれば必要な資料についてついて教えてくれます。

【請求に必要な書類】

書類名傷害後遺障害死亡
政府保障事業への損害補てん請求書
請求者の印鑑証明
交通事故証明書
事故発生状況報告書
診断書
後遺障害診断書
死体検案書もしくは死亡診断書
診療報酬明細書
通院交通費明細書
健康保険等被保険者証(写し)
戸籍謄本
休業損害証明書
(給与所得者の場合)
損害を立証する領収書
振込依頼書
 

2つ目に請求先としてあげられるのが、「人身傷害保険」や「無保険車傷害特約」など自分が加入している保険会社へ請求をかける方法です。
これらは、自動車保険のオプションプランとしてつけることが多いです。
人身傷害保険は、実際に発生した損害に対して、過失割合に関係なく、保険金を請求できるものですので、当然、ひき逃げで負傷した場合も利用できます。休業損害や治療費、精神的損害等の費用を支払ってもらうことが可能です。
一方、無保険車傷害特約は、交通事故の加害者が無保険であった場合に適応される特約です。ひき逃げにより加害者が不明のという場合も、加害者無保険とみなされ、使用可能です。
被保険者が死亡または、後遺障害を負ってしまった場合に使用することができます。請求限度額は保険会社により多少異なりますが、2億円~無制限である場合が多く、一般的に人身傷害保険に加入している場合は自動的に付帯されたいることが多いです。

どちらの請求方法をとるにせよ、一時的に被害者本人が治療費などを立替る必要があります。
交通事故による怪我の治療は健康保険を使えないと思っている方が多いですが、加入している健康保険組合に「第三者行為による傷病届」という書面を提出すれば、健康保険を使っての治療通院は可能です。怪我の治療は半年から1年以上を要するものまでさまざまです。治療費は意外と大きな金額になりますので、自己負担を軽くするためにも健康保険を使って治療をしておくことをお勧めします。

また、後日に加害者が分かった場合、加害者の保険会社へ通常通り損害の請求をすることができます。
「飲酒運転やひき逃げ事故の場合は保険が下りない」という話を耳にしたことがある方はいるのではないでしょうか?
これは、加害者本人が人身傷害保険や搭乗者保険が使えないというだけであって、被害者にお金が下りないというわけではありませんので、ご安心しください。
損害賠償請求には被った損害の証拠となるものが必要ですから、診療報酬明細書やその他費用の領収書はできるだけ残してきましょう。

加害者が無保険だった場合は、「加害者が任意保険未加入だった!どうすればいい?」をご覧ください。

3. 加害者にはどんな刑罰が科されるの?

「ひき逃げ」ということ言葉は法律用語ではありません。
道路交通法第72条により、交通事故の際の救護義務と報告義務が規定されていますが、これを怠り、事故現場から立ち去ることを「ひき逃げ」と呼んでいるだけです。
ひき逃げは犯罪行為であり、刑罰が科されます。法律上の言葉で言えば、道路交通法の救護義務違反、危険防止義務違反にあたり10万円以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
また、ひき逃げにより被害者が怪我をし人身事故の扱いとなれば、過失運転致死傷罪が成立し7年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されることになります。
これら2つのどちらも成立する場合、併合罪とされ、15年以下の懲役が科される場合もあります。

これに加え、スピード違反や、最近ニュースで話題の飲酒運転を隠すために現場を立ち去ったような場合には、危険運転とみなされ、より重い刑罰が科されることとなります。

4. まとめ

ひき逃げに遭った際に対応方法について説明しました。

ひき逃げは、加害者が自分のことだけしか考えず、被害者のことを顧みない卑劣な行為です。被害に遭った場合には、そのまま泣き寝入りするのではなく、できるだけ早く警察に連絡し加害者を特定してもらうことが大切です。
また、加害者特定までに時間がかかったり、加害者がいつまで経ってもわからないこともあります。交通事故の損害額は思った以上に大きなものです。できるだけ少ない負担で済むように、早めに政府保障事業や加入保険の使用を考えましょう。
政府保障事業や加入保険からの保険金だけで賄えない損害が発生している場合やひき逃げの加害者との交渉が不安な方は、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

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