加害者が任意保険未加入だった!どうすればいい?

自賠責保険は強制加入保険のため、車検を怠り、契約期限切れに気付かなかったというようなことがない限りは自賠責保険が使えないということはありません。

しかし、「加害者が任意保険に未加入だった」というのは割とよく聞く話です。そういった場合、交通事故による怪我の治療費はどこに請求できるのでしょうか?物損の費用は請求できるのでしょうか?
加害者が任意保険未加入だった場合にとるべき対応をご説明いたします。

加害者が任意保険未加入で困っているイメージ

1. 加害者が任意保険未加入!事故直後に確認しておきたいこと

交通事故にあった際、相手の連絡先と保険会社を聞いておくべきです。保険会社を確認する際には、自賠責保険会社と任意保険会社の2つの保険会社を確認する必要があります。自賠責保険は加入することが強制されている保険なので、車検を怠って、自賠責保険の期限が切れていたというようなことがない限り、加害者が自賠責保険に入っていないということはほぼないと思います。
しかし、これとは逆に「任意保険に入っていなかった」というのは意外とよくある話です。
損害保険料率算出機構の統計によれば、2017年3月末での対人賠償保険、すなわち任意保険の加入率は全国で74.3%という数字が出ており、約3割の方は任意保険に加入していない状態です。
つまり、事故に遭った際、加害者が任意保険無保険者である可能性は意外と高いということです。

では、実際に交通事故に遭った際、加害者が任意保険無保険者であった場合、事故直後どういった対応をすることが必要なのでしょうか?

まずは、自賠責保険の会社がどこであるか教えてもらいましょう
自賠責保険は、強制加入保険なので、車両を購入した場合に、必ず入っているはずです。どこの会社か忘れたという方がよくいらっしゃいますが、自賠責保険の保険証書は車検証と同様に車両への備え付けが義務つけられていますから、その場で確認できるはずです。

次に、加害者の連絡先を聞いておきましょう
任意保険が使えない場合、自賠責保険で賄えなかった費用については、加害者本人へ請求することになります。加害者と連絡が取れなくなってしまうと、請求ができなくなってしまいますから、必ず連絡先を聞いておきましょう。できれば相手の名刺などをもらっておくとよいでしょう。

万が一、加害者が何も教えてくれない場合には、自動車安全運転センターにて、交通事故証明書を取得しましょう。
交通事故証明書には、加害者・被害者に関する基本的な情報が載っており、自賠責保険会社名や自賠責番号も記載されています。警察に届け出た事故についてのみ発行ができる書面であり、人身事故の場合は事故発生から5年間、物損事故については3年間発行が可能です。近くの自動車安全運転センターの窓口またはインターネットによる郵送請求が可能です。1通540円かかりますが、加害者が情報を教えてくれない場合、請求先がどこなのか明らかにしないと、損害費用の泣き寝入りをする羽目になりかねませんから、早めに交通事故証明書を取得し、損害費用の請求先を確認しましょう。

2. 自賠責保険と政府保証事業

任意保険が使えない場合、損害賠償請求ができる最も可能性の高い請求先は自賠責保険です。
しかし、自賠責保険に請求ができるのは、体への被害があった場合のみ、つまり人身事故扱いになっている事故の場合のみであり、物損事故扱いの事故や人身事故扱いになっていたとしても車両などの損害費用は請求ができません。
ただし、物損事故の扱いになっている事故でも、体に治療を必要とする怪我がある場合、人身事故扱いになっていない理由を明確に書面に記載し、診断書などがあれば、怪我についての損害費用を請求することは可能です。

自賠責保険への請求の方法には2つあります。被害者請求と加害者請求です。
被害者請求とは、被害者が直接、加害者の保険会社へ連絡し、請求する方法です。
保険会社への書類提出を自分で行わなければならないため、資料を集める手間はかかりますが、被害者が治療のためにお金が必要な場合は、仮渡金制度を使って、一部のお金を先に受け取ることもできます。
被害者請求では、傷害部分の請求は事故発生から3年以内、後遺障害については症状が発生してから3年以内、死亡による損害請求については死亡から3年以内に請求する必要があります。

加害者請求は、加害者が被害者に対して支払ったお金を、加害者自ら保険会社に連絡し、請求をする方法です。
この場合は、自賠責保険会社から前払い受けることはできず、加害者が被害者に損害賠償金を支払ったことがわかる資料を自賠責保険会社へ提示することで加害者は保険会社からの支払を受けることができます。傷害・後遺障害・死亡いずれの場合でも、損害賠償金を支払ってから3年以内の請求が必要です。

自賠責保険に請求する場合、どちらの請求方法をとっても。傷害による損害については120万円、後遺障害については4000万円、死亡による損害については3000万円を支払限度額として、自賠責保険会社から支払ってもらうことが可能です。

まれに、車検をきちんと行っていなかったなどの理由で、自賠責保険すら使えない場合があります。加害者がきちんと損害賠償金を支払ってくれればいいのですが、加害者からの支払いが見込まれない場合には、政府保証事業を使うことができます。
政府保証事業とは、健康保険や労災保険、その他の社会保障制度の給付、加害者からの支払を受けてもまだ被害者に損害が残る場合に最終的な救済措置として、法定限度額の範囲内で政府がその損害について補てんをする制度です。この政府保証事業は被害者のみが申請することができます。
政府保証事業を利用したい場合は、全国の保険会社もしくは農協の窓口で受け付けています。

3. 健康保険を使って通院しましょう

加害者が任意保険未加入の場合、被害者は自賠責保険の会社へ治療費などの請求しましょうと前段でお伝えしました。しかし、自賠責保険会社は当面の費用を前もって請求できる制度がありますが、この仮渡金の制度は怪我の状態によって支払をしてもらえる金額が異なりますし、しかもすぐにお金をもらえるわけもありません。

交通事故の治療は基本的には自由診療での治療となるとなります。自由診療とは健康保険証が使えない診療のことですが、そのため治療費は大変高額になります。治療は半年程度の期間を要するものから1年以上の期間を要するものまで様々です。後で自賠責保険に請求できるからとはいえ、そのまま立て替えていたら大変な金額になってしまいます。
また、そもそも自賠責保険に請求できる金額は、治療費や通院交通費、装具費用、慰謝料など、すべて含めた上限金額が120万円です。自由診療で治療を受けていたら治療費だけであっという間に120万円を超えてしまい、慰謝料として受け取れる金額が減ってしまいます。
治療用に受け取れる金額を増やすためにも、必ず、健康保険を使って治療を行いましょう。

交通事故だと健康保険は使えないと思っている方は多くいらっしゃいますが、交通事故の場合も「第三者行為による傷病届」という書面を自分が加入している健康保険組合に提出すれば、健康保険を使っての治療は可能です。
加害者のサインが必要になる書面ですが、自賠責の担当者などを通せば、直接加害者本人に会わなくとも、保険会社が加害者から署名を取り付けてくれます。
健康保険を使えば、治療費も安く済みますし、最終的に120万円のうち、治療につかわなかった分を慰謝料として受け取ることも可能になりますので、受取金額の増大にもつながります。

病院の中には、「交通事故の場合、健康保険利用の通院ができません」と断わる病院があります。交通事故の治療の多くは、任意保険会社からの支払いのため、健康保険は使えないと言っていることが考えられます。使えないといわれた場合には、事情を話し、再度使えるか確認しましょう。
中には、それでも健康保険を使えない場合があります。一度お電話で確認してから病院へ行くことをお勧めします。

4. 人身傷害保険と搭乗者保険をご存知ですか

人身傷害保険と搭乗者保険ご存知でしょうか?
交通事故で死傷してしまった場合に、相手方の有無や過失割合に関係なく、契約内容の基準額にそって保険金の支払いを受けられる保険です。自動車保険の任意保険加入時にオプションとしてつけることができます。
これまでの説明では、加害者の加入している自動車保険について話してきましたが、人身傷害保険と搭乗者保険は被害者自身が加入している保険についての話になります。

人身傷害保険や搭乗者保険は、過失割合に関係なく補償が受けられるという利点があります。
交通事故の場合、過失割合によって保険会社から支払われる額が変わるというのはご存じのことかと思います。しかし、この人身傷害保険と搭乗者保険については過失割合に関係なく支払ってもらえるのです。

人身傷害保険で賄えるものは、休業損害や治療費、精神的損害等、実際に被った体についての損害費用です。契約した金額によって補償額は異なりますが、保険会社によっては無制限の補償のものもあります。
一方、搭乗者保険は、死亡や怪我をした場合、部位や症状に応じて、あらかじめ決められている定額の金額が支払われます。こちらも保険会社によって支払基準の多少の誤差はありますが、入通院の一時金の支給もあります。

また、人身傷害保険や搭乗者保険は、示談を待たずにお金が支払われるという面も非常に良い点です。
交通事故は示談までに長い時間を要します。相手方が保険未加入だった場合には、直接個人への請求となるわけですから、保険会社がついている場合に比べ、さらに長い期間を要すことが考えられます。ただでさえ交通事故の対応にはお金がかかるものです。示談までにかかる費用をすべて自費で負担していたら、家計に大きな打撃を与えることになります。
人身傷害保険は、示談を待たずに総損害額を支給してもらうことができます。搭乗者保険がついていた場合には、保険会社の契約約款により多少異なりますが、多くの場合、通院から5日経過すると定額の一時金が支払われます。

怪我をした場合には、ご自分が加入している保険証券を一度確認してみることをお勧めします。

5. 加害者本人への請求をしましょう

自賠責保険会社からの支払には限度額があること、物損の損害については自賠責では賄われない旨を先ほどお話ししました。入通院が長引いている場合や大きなけがの場合、治療費だけで120万円をあっという間に超えてしまいますし、人身傷害保険や搭乗者保険を使い怪我に関する損害は賄えたとしても、車の損害については賄えません。ましてや、そういった保険への加入がない場合、慰謝料や休業損害は泣き寝入り、今後の治療費は自分で支払うしかないのかと不安に思った方もいらっしゃるかとおもいます。

そういった場合は、加害者本人への請求を考えましょう。被害者には加害者へ損害を請求できる権利があります。
加害者へ請求する場合、自分で請求するのは怖いし不安だし、ましてやどうやって請求すればいいかわからない、いくら払ってもらうのが妥当かもわからないかと思います。
加害者へ直接請求をしたい場合には、弁護士に依頼しましょう。
弁護士に依頼すれば、最初の相手方へのコンタクトから示談交渉まですべてを請け負ってもらうことが可能です。

但し、保険会社相手とは違い、直接加害者へ連絡を取る必要がありますので、加害者の居場所がどこなのか、どこに連絡すればいいのかということがわかっていなければ、弁護士であっても対応することができません。必ず、事故に遭った際には、加害者に連絡のつく連絡先を聞いておきましょう。

連絡先がわかれば、弁護士が電話で加害者と連絡を取るか、もしくは内容証明郵便を使って連絡を取ってくれます。窓口は弁護士となりますので、自分の住所を加害者へ明かす必要もありません。
加害者への直接請求したい場合には、弁護士に依頼することをお勧めします。

6. まとめ

今回は、加害者が任意保険未加入だった場合の対応方法について説明しました。

これだけ車が浸透している世の中でも、思った以上に任意保険に未加入の方はたくさんいらっしゃいます。無保険者との事故に遭うことはそう少ないものではありません。

自分が被害者となった場合だけでなく、逆に加害者となってしまった場合のことも考えて、少ない損害で済むよう、自分の身を守るためにも、車に乗るからには自賠責保険だけでなく、任意保険にも必ず加入しておきましょう。できることであれば、人身傷害保険や搭乗者保険に入っておくことをお勧めします。

また加害者への直接請求をしたい場合には、トラブルを避けるためにも弁護士に依頼することをお勧めいたします。

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