弁護士に頼むと示談金が増額できるってホント?

「弁護士に頼むと示談金が増額する」とよく聞きますが、実際に上がるのでしょうか?

交通事故の被害に遭ってしまったら、できるだけ高い金額で慰謝料を請求し、納得のいく金額で示談をしたいと思いますよね?
弁護士は「裁判所基準」という高い支払基準での示談交渉が可能です。どのくらい増額が可能なのか具体的に説明していきます。

弁護士に依頼し示談金が増額したイメージ

1. 示談金の支払基準には3つあります

「弁護士に頼むと示談金が増額する」とよく耳にしますが、そもそも慰謝料の支払基準には、大まかに以下の3つが存在します。

  • 自賠責基準
  • 保険会社基準
  • 裁判所基準(赤本基準・青本基準)

自賠責基準とは、自賠責保険が定める支払基準で、死亡事故の場合、死亡による損害につき最高3000万円、死亡に至るまでの傷害による損害については最高120万円が支払われます。言葉が回りくどいですが、簡単に言ってしまうと、死亡したら最高で3000万円、死亡するまでに使った治療費などに関しては最高120万円支払われるということです。
傷害事故については、傷害による損害につき最高120万円 、後遺障害については後遺障害の程度により75万円~最大4000万円が支払われます。
自賠責保険の注意点は、自賠責保険が保障するのは、人身事故の慰謝料のみで、物損事故についての賠償金の支払がない点です。

保険会社基準は、その名の通り保険会社が提示する慰謝料の金額であると思ってください。
保険会社は民間企業ですので、会社によって違った基準を設けていますが、基準自体は公開していません。ただ、同じような経過をたどっている案件であれば、どの保険会社でも、大抵、同じような金額が提示されます。悪い言い方をすれば横並びですが、ほとんどの保険会社は、この後説明する「裁判所基準」の8割程度の金額で示談提示をしてくるようです。保険会社も裁判所基準で慰謝料を提示しても構わないのですが、保険会社は基本的には営利目的の企業であり、加害者に代わって支払う示談金が少なければ少ないほど会社としてはうれしいので、最高額である裁判所基準を使わないのはある意味、当たり前だと言えます。
「裁判所基準」の8割程度の金額と言っても、交通事故の示談交渉は保険会社の担当者ごと決済権限があるため、常に一定の金額を提示されるとも限りません。

これら2つに対して、弁護士が使っている算定基準が「裁判所基準」です。
裁判所基準は、過去の判例などから導き出された示談金額の基準であり、他の2つの基準と比べ、最も高い金額での示談提示が可能です。

名古屋その他一部地域を除いた事故については日弁連交通事故相談センター東京支部が発刊している『損害賠償額算定基準』(通称:赤い本)に記載されている算定の基準を用い、名古屋その他一部の地域については、日弁連交通事故相談センター発刊の『交通事故損害額算定基準』(通称:青本)に記載されている算定基準を用います。

赤本と青本の大きな違いは、入通院慰謝料に幅を持たせて算定しているかどうかです。
青本は慰謝料の幅を持たせた算出がなされており、逆に赤本は金額が明示されています。青本については、怪我の重さの度合いによって金額を変更することを基準としており、地域によって収入や物価が異なることも算定の基準となるに値するとして幅を持たせて算出されているといわれています。
二つの算定基準が存在し、今でも地域によって違う基準を使っているのは、裁判所の慣習によるものです。

どちらの本を使っても、実際に行われた裁判で判例として出された損害賠償金額を基準にしていますので、似たような案件であれば、それに見合った費用を請求できます。何より基準が記載された本は、赤い本は毎年・青本は隔年で発刊されるものですから、常に新しい賠償基準で保険会社へ請求ができるということになります。

但し、青本を使う場合は注意をしなければなりません。
青本は算定基準に幅を持たせているため、大抵は間をとっての計算となります。一般的には赤本を使って慰謝料の算定をするよりも低い金額で相手方へ示談提示を示すことになります。

そのため最近では、どこの地域の交通事故であっても、金額が明示されている赤本で計算する弁護士が増えています。
お住まいの地域が青本基準で算定される地域であったとしても、赤本で算出することを禁じられているわけではありません。高い基準で示談するために、弁護士に相談して赤本基準で算出し、できるだけ大きな金額で相手方保険会社へ提示したほうが良いといえます。

2. 示談金の差が発生する項目

では、実際に保険会社と弁護士の示談提示金額の違いはどこに表れてくるのでしょうか?

交通事故の損害賠償請求では主に以下の9つ項目を保険会社に請求ができます。

  • 治療費
  • 付添看護費(病院からの指示があった場合)
  • 入院雑費
  • 通院交通費、宿泊費
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 逸失利益
  • その他雑費

この中で、弁護士が介入することで大きく金額が変わってくる費目は、

  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 逸失利益

の4つです。

休業損害とは、治療のために、仕事を休まざるをえなかった場合、休んだことにより、得られなかった収入を請求するものです。
休業損害は、「1日当たり平均賃金×症状固定日までの休業日数」で計算します。

会社員の方や主婦の方はあまりもめることはありませんが、会社の社長や役員報酬をもらっている役員、またはフリーランスのような個人事業主の方の場合、会社員や主婦とは違い、1日あたりの損害を単純に計算するのが難しく、基準となる1日の金額をいくらにするかでもめる可能性があります。

後遺障害慰謝料と逸失利益は、後遺障害が認定された場合に支払われるものですが、保険会社の支払基準と裁判所基準での示談額を比較した場合、最も大きな差を生むのがこの後遺障害部分の損害になります。

後遺障害慰謝料については、想定される保険会社の算定は以下の2つが考えらます。

  1. 自賠責保険から払われる分のみで、任意保険会社からの支払は無し
  2. 裁判所基準額の差額の80%程度で提示

それに対し、裁判所基準での後遺障害慰謝料は以下となります。

【裁判所基準の後遺障害慰謝料】※赤い本

1級2級3級4級5級6級7級
2800万2370万1990万1670万1400万1180万1000万
8級9級10級11級12級13級14級
830万690万550万420万290万180万110万

逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が低下してしまい、それによって被るであろう損失をいいますが、後遺障害が認定された場合、示談金が大きくなるかどうかは、この逸失利益にかかってきます。
逸失利益の額は「年給与×労働能力低下期間×労働能力喪失率(等級に応じて)×ライプニッツ係数(年金現価係数)」で計算します。ライプニッツ係数とは、年5%の法定利率により毎年発生する利息を差し引く計算を係数化したものです。ライプニッツ係数を説明しだすと長くなりますので、簡単に説明すると「10年後にもらえる1万円」を今もらうのであれば、1万円を10年間預金しておけば当然利息がつきますので、1万円からその利息を差し引いた金額で支払うべきだという考えに基づいて、金額を減らす処理を行うためのものです。
重要なのは、ライプニッツ係数ではなく、労働能力が低下するとされる期間の年数によって逸失利益が異なるという点です。

逸失利益の労働能力低下による損害発生期間を裁判所基準で計算する場合、原則、症状固定日から67歳までの期間(ムチウチ症に関してはこの限りではない)を計算しますが、保険会社は、後遺障害の症状や被害者の仕事内容によって、67歳までを労働能力の低下する期間としては考えず、労働能力が低下すると考えられる期間を短く算出してくることが多くあります。
労働能力の低下すると考えられる期間が長ければ長いほど、損害額は大きくなりますから、保険会社の認定期間によって、弁護士が介入した場合との差額が大きくなります。

こういったことを考えると、そもそも怪我の状況にあった正しい後遺障害等級をとっておくことは重要です。後遺障害が非該当(認定なし)とされてしまえば、後遺傷害慰謝料も逸失利益の支払もありません。
逆に言えば、後遺障害慰謝料は認定等級が高ければそれだけ金額は上がります。先ほど述べた逸失利益も、認定される等級によって労働喪失期間は長くなるともいえます。
そのためにも、怪我の状況にあった後遺障害認定をとっておくことはとても重要です。

しかし、後遺障害を認定してもらうためには、「カルテ」「診断書」「後遺障害診断書」など様々な書類が必要になり、これらをすべて自分で集めようとすると大変です。
そのため、弁護士に依頼していない場合は、保険会社に後遺障害申請の全てを任せてしまうことが多くなると思います。保険会社に後遺障害の申請を頼んだ場合、保険会社は多くの案件を管理していることもあり、被害者一人一人に対して、後遺障害申請前に提出書類の確認をさせてくれることはほとんどありません。そして、被害者本人は何を出したかも知らずに後遺障害申請の結果だけ突きつけられることになります。
そういった状況では、適切な等級認定がされないばかりか、ひどい場合には資料が足りずに後遺障害が認定されないといったこともあります。

そういったことを避けるという点でも、弁護士に依頼するのはメリットがあります。弁護士なら、一から後遺障害申請のサポートも可能ですし、依頼者と一緒に後遺障害の資料を集めることになるので、納得のいく状態で後遺障害申請をして、最終的に等級が付けば、高い金額で慰謝料請求することが可能となります。
算定基準が変わるという点だけでなく、このようなことからも弁護士に依頼したほうが示談金が増えるといえます。

入通院慰謝料も保険会社との交渉で争いが多いものの一つです。
入通院慰謝料は、入通院をしたことに対する慰謝料として支払われるものです。入通院慰謝料の計算は、通院が長期にわたる場合は症状、治療内容、通院頻度を踏まえ、通院期間と通院実日数×3.5を比較し、少ない日数を採用するものとされており、その計算は表を使ったもので

「入院と通院の交わるところの金額(入院○か月、通院○か月)

+{入院 (実際より1ヶ月上の入院金額-実際の入院月数の金額)×日数/30}

+{通院(実際より1ヶ月上の通院金額-実際の通院月数の金額)×日数/30}」

となっています。
計算基準となる表は以下となります。原則は【別表1】を使い、他覚症状のないムチウチ症の場合は【別表2】を使用し算出します。

【別表1】※1月は30日とする

(単位:万円)
入院1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月13月14月15月
通院053101145184217244266284297306314321328334340
1月2877122162199228252274291303311318325332336342
2月5298139177210236260281297308315322329334338344
3月73115154188218244267287302312319326331336340346
4月90130165196226251273292306316323328333338342348
5月105141173204233257278296310320325330335340344350
6月116149181211239262282300314322327332337342346
7月124157188217244266286304316324329334339344
8月132164194222248270290306318326331336341
9月139170199226252274292308320328333338
10月145175203230256276294310322330335
11月150179207234258278296312324332
12月154183211236260280298314326
13月158187213238262282300316
14月162189215240264284302
15月164191217242266286

【別表2】※1月は30日とする

(単位:万円)
入院1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月13月14月15月
通院0356692116135152165176186195204211218223228
1月195283106128145160171182190199206212219224229
2月366997118138153166177186194201207213220225230
3月5383109128146159172181190196202208214221226231
4月6795119136152165176185192197203209215222227232
5月79105127142158169180187193198204210216223228233
6月89113133148162173182188194199205211217224229
7月97119139152166175183189195200206212218225
8月103125143156168176184190196201207213219
9月109129147158169177185191197202208214
10月113133149159170178186192198203209
11月117135150160171179187193199204
12月119136151161172180188194200
13月120137152162173181189195
14月121138153163174182190
15月122139154164175183
 

例えば、総通院期間日が3ヶ月10日で、入院日数が10日、通院日数が110日の場合で計算してみますと、入院日数は1ヵ月未満なので最初の列、通院は110日なので3ヵ月なので4行目、この2つが交わるのところは73万円になっています。実際より1ヶ月上の入院金額は、1ヶ月の列ですので115万円、実際より1ヶ月上の通院金額は4ヵ月なので5行目の90万円、これを上記の式に当てはめると

73万円+{(115万円-73万円)×10日÷30}+{(90万円-73万円)×10日÷30日}

=73万円+14万+5.6666...

=92万6667円

となり、92万円以上になります。
保険会社は裁判所基準の80%程度で示談提示して来ることが多いため、弁護士に依頼した場合との差額が大きくなります。

3. 実際にどのくらい増額できるの?

では、実際にどのくらいの増額が見込めるか、具体的な例でみていきましょう。
都内会社勤めの男性Aさん45歳と都内在住主婦30歳Bさんのケースで説明します。今回は、全国的に使われている日弁連交通事故相談センター東京支部発行『損害賠償額算定基準』(通称:赤い本)を裁判所基準額として算定します。

【ケース1】

都内在住 男性45歳

職業 :会社員.年収640万

怪我  :右肩の鎖骨骨折による変形・可動域制限・頸椎捻挫・腰椎捻挫

入通院日数:通院110日 入院10日

休業日数:30日

2章でお伝えした、保険会社と弁護士の提示金額が異なってくる賠償費目の4つを比較します。

後遺障害については、

  • 右肩の鎖骨骨折の変形 12級5号
  • 右肩の鎖骨骨折 10級10号
  • 頸椎・腰椎捻挫 14級9号

が取れ、それら等級により、認定等級が繰り上がり、結果併合9級が後遺障害として認定されたものとします。

費目保険会社基準弁護士交渉時(裁判所基準)
休業損害40万円40万円
逸失利益2325万0528円
(労働喪失期間15年60歳まで)
2948万5120円
(労働喪失期間22年67歳まで)
入通院慰謝料74万1334円
(赤本80%の金額)
92万6667円
(別表1に従って)
後遺障害慰謝料616万円
(9級自賠責支払分のみ)
690万円
(赤い本満額請求)
合計3055万1862円3771万1787円
自賠責既払い分616万円616万円
最終支払額2439万1862円
3155万1787円
 
保険会社基準よりも715万9925円も高い金額を提示できることがわかります。
 

【ケース2】

都内在住 女性30歳

職業:主婦

怪我:ムチウチ

入通院日数:通院100日

休業日数:主婦のため主婦休業損害で請求

後遺障害についてはムチウチで14級9号が取れているものとします。

費目保険会社基準弁護士交渉時(裁判所基準)
休業損害57万円
(日額5700円×実通院日数)
103万800円
(賃金センサス女性学歴計による日額×実通院日数)
逸失利益51万2275円
(労働喪失期間3年33歳まで)
81万4444円
(労働喪失期間5年35歳まで)
入通院慰謝料46万1334円
(赤本80%の金額)
57万6667円
(別表2に従って)
後遺障害慰謝料75万円
(9級自賠責支払分のみ)
110万円
(赤い本満額請求)
合計229万3609円
352万1911円
自賠責既払い分75万円
75万円
最終支払額154万3609万円
277万1911円


こちらのケースでも、122万8302円も高い金額を保険会社に対して提示にすることができます。

これらの例からもわかる通り、交渉開始時の提示額がこれだけ高い金額でスタートできるわけですから、スタートの金額が高いぶん、保険会社との交渉の末、たとえ裁判所基準の満額請求が通らなかったとしても、ほとんどの場合、保険会社基準の示談金よりも高い金額で示談することが可能となるのです。

4. まとめ

交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すると示談金額が上がることについて説明してきました。
2つの具体的なケースで見ていただいた通り、弁護士が介入した場合、保険会社提示の金額とかなりの差が生まれるのがわかっていただけたかと思います。

弁護士は裁判所基準の高い金額で示談交渉をすることが可能です。特に後遺障害の認定が取れた場合の示談金の増額はとても大きいものです。

示談は、被害者と加害者の双方の合意によって取り決めるものなので、適切な根拠も出さずに自分の希望だけで金額を上げることはできません。
また、示談書の取り交わしは、「これ以上、この件についての損害賠償請求はしません」という意思表示でもあります。そのため、示談書に一度サインしてしまうと、示談内容に合意したとみなされ、取り交わし後に費用の請求が漏れていたことが分かっても、示談のやり直しはできません。

漏れがないよう、きちんと賠償金額を受け取るためにも、自分の判断だけで示談を決めてしまわずに一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

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