弁護士に相談・依頼するタイミングっていつ?

仕事や家事をしながら、車両の修理依頼や怪我の治療、保険会社からの定期的な進捗確認の電話対応と、交通事故後はやるべきことがたくさん。難しい用語もたくさん出てくるし、わからないことだらけです。正直、治療だけに専念して、日常の生活を送りたい。いっそ誰かに頼んでしまいたい思う方は多いかと思います。
そんな時には弁護士へ依頼を検討してみてはいかがでしょうか。ここでは弁護士への相談・依頼方法や依頼する時期についてご説明します。

交通事故について弁護士に相談しているイメージ

1. 弁護士に依頼するメリット

治療に、車両修理に、加害者の保険会社との電話。
事故後、被害者がやらなければならないことの多さに、「被害に遭ったのに、なんでこんなことまでやらなきゃいけないの?」と理不尽に思うことが多々あるかと思います。
示談金をもらうためには、仕事や家事をしながらすべてに対応しなくてはならない訳ですから、やることの多さに猫の手も借りたいぐらいの状態かと思います。
中でも、厄介なのが保険会社との交渉です。「自分ではよくわからないし納得のいく示談をしたい。でも誰に相談したら・・・」
そんな時は弁護士に相談してみましょう。

弁護士費用が高いイメージがあるためか、多くの方は自身が加入している保険に示談交渉サポートがついている場合、弁護士に依頼することは考えず、保険会社にすべてをお願いしてしまいがちです。しかし、保険の示談交渉サポートを安易に使って相手方と交渉をすると、損をする場合があります。
保険会社は「保険会社基準」での示談金額を求めてくるためです。

交通事故の示談には「自賠責基準」「保険会社基準」「裁判所基準」と呼ばれる3つの示談金支払額の基準があることをご存知でしょうか?

車を所有をする人なら加入を義務付けられている、自賠責保険は「自賠責基準」という支払基準に沿い、示談金の支払を行います。
「自賠責基準」は、支払限度額が傷害部分については120万円、死亡事故には3000万円と決められていて、最も低い金額の基準になっています。

保険会社が主に提示してくる支払額は、各保険会社が独自に規定している「保険会社基準」という支払基準です。
保険会社も企業ですので会社の利益を考えなくてはなりません。そのため、加害者が本来支払うべきものを肩代わりして支払わないといけない示談金はできるだけ金額を抑えたいわけです。
保険会社ごとに基準が若干異なると聞きますが、その多くは、このあと説明する「裁判所基準」の約8割程度の金額であると言われています。法律などの規定によって保険会社が「裁判所基準」での提示ができないというわけではなく、会社のことも考えて、「この金額で、示談してくれたらラッキー」という被害者がそこまで損をしない8割という絶妙な金額で提示をして来るわけです。
自賠責基準よりも示談金額が高いこともあり、まとまった金額で示談となることから、一見かなり多い金額の示談金がもらえるように見えます。保険会社同士、プロがやり取りしてくれたから、計算に間違いはないだろうと、この「保険会社基準」の金額が低い提示であるとは知らずに示談をしてしまう方が多いようです。

弁護士は、「裁判所基準」での示談交渉をします。
「裁判所基準」は、弁護士が示談交渉する場合や、裁判を行う際に採用される基準です。過去の判例から算出された示談提示基準ですので、「裁判所基準」が3つの示談金支払額の基準のうち、最も支払金額が高い基準であるといえます。
したがって、弁護士に依頼すると、通常、加害者の保険会社が提示してくる金額よりも高い金額で交渉することができ、多くの場合、保険会社の提示から増額した金額を受けとることができます。
先ほどお伝えしたように、保険会社も会社の利益を考えなくてはなりません。そのため、保険会社は穴を見つけてきては、示談額を抑えようとしてきます。弁護士は交渉のプロですから、その金額に対し、被害者がどれだけの損害を被ったかを保険会社に訴え、増額の交渉をしてくれます。

弁護士ではなく、司法書士に相談してはいけないのか?という疑問があるかと思います。
法務省の認定を受けた認定司法書士であれば、示談交渉は確かに可能です。しかし、示談金請求額が大きくなると司法書士は示談交渉ができません。司法書士は140万円という交渉の限度額があるためです。
また、自賠責保険に対する請求に司法書士は立ち合うことができないという規定もあります。したがって、体に怪我をしているような事故の場合には、司法書士にお願いできない可能性がとても高く、また、当初140万円未満の示談金の請求を検討していても増えてしまえば、司法書士は解任せざるをえなくなってしまいます。
軽度の事故の場合は司法書士に依頼することも一つの手ですが、怪我を伴うような事故の場合は、限度額も制限もない弁護士に最初から依頼したほうが良いです。

2. 弁護士に依頼するタイミングとは

では、弁護士に依頼するタイミングはいつでしょうか。

「相手から示談金が低く提示された時でしょ?」とか「そもそも、大きなけがもしていない事故で弁護士頼めるの?」というは話をよく耳にします。
しかし、この認識は間違いです。事故の大小にかかわらず、弁護士は依頼できますし、交通事故の被害にあったら、できるだけ早めに弁護士に依頼することが良いとされています。

どうして早く相談しておくことが良いのでしょうか?

早期に依頼しておくことで、きちんと治療を受けられ、有意義な示談交渉をすることができるからです。
保険会社は、常に事故対応と向き合っているわけですから、このぐらいの怪我であれば、治療期間はこのぐらいで十分だなという、治療に関しての一定の基準をもっています。
被害者はできるだけ、継続して治療のための病院に行くべきですが、仕事をしていたり、子供の面倒を見ながら家事をしていたりすると、忙しさのあまり、体の痛みがあっても病院へ行くのを我慢し、通院頻度が低くなってしまいがちです。
保険会社はこういったところを見逃しません。
保険会社は治療日数が伸びればそれだけ支払わなくてはならない慰謝料が増えるため、毎月の診断書や診療報酬明細書の内容から「これだけ通院頻度が低いのであれば、もう治療は必要ないですよね?そろそろ治療費の支払いは打ち切りましょう」と被害者が通院できなかった事情も聞かず、一方的に治療費の打ち切りを迫ってきます。

そんなとき、弁護士がついていると、主治医の先生に通院の必要性を確認し、被害者の仕事状況を考慮のうえ、保険会社へまだ治療が必要である旨を交渉してくれます。こういった交渉によって、きちんと治療に必要な日数を確保し、治癒または症状固定となる日まで、保険会社の支払にて通院が行えるようになることがあります。

そのため、できるだけ早期に弁護士には相談・依頼をしたほうがいいのですが、すでにだいぶ治療が進んでいるという方は、後遺障害認定を申請する前に弁護士に一度相談したほうがいいです。
後遺障害認定の申請には、「後遺障害申請書」という自賠責が定めた診断書を医師に書いてもらう必要があります。
しかし、この後遺障害診断書がなかなか厄介です。医師は治療により完璧に治すことを使命として仕事をしているため、この診断書を書いてしまうことで「これ以上は医師では治しようがない。お手上げですよ」ということを認めてしまうと捉え、後遺障害診断書をきちんと書いてくれない医師がいまだに一定数いらっしゃいます。
そのため、被害者が書いてくださいとお願いしに行くと、治療をしても残存する症状であると書いてくれればいいものの「治療を続ければ治る見込みあり」とか「症状は減退しつつある」と書かれてしまうことがよくあります。
残念ながら、そう書かれてしまうと自賠責の調査官は治る見込みのある症状だと認識し「後遺障害である」という認定をしてくれません。
そういったことを少なくするため、多くの弁護士事務所では後遺障害申請の準備段階から、医師に後遺障害診断書がどういった役割の書面であるかを伝え、どういう検査が必要かを伝えることで被害者の後遺障害認定の申請のサポートをしています。医師に記載していただいた後にも、遺障害診断書の記載内容をきちんと確認し、足りない検査や記載漏れがある部分については、弁護士から医師に対して再度連絡し、きちんとした体裁にしていただくよう交渉することもよくあります。

治療や後遺障害認定の申請を筆頭に保険会社は示談までゆっくりとは進ませてくれません。気がついたときには、最終の示談金が提示されていたということも稀ではありません。
きちんと一つ一つ納得のいく賠償を受けるためにも、早めに弁護士に相談し、できることであれば、弁護士にすべて対応をお願いしてしまうほうが、納得のいく金額をもらえる可能性が高くなるといえます。

3. 弁護士を選ぶ基準と弁護士費用

前段で、弁護士を早くつけるほうが得策であるとお伝えしました。
だからといって、安易に弁護士を選んで依頼するのは危険です。交渉とひとくくりにいっても、弁護士にも得意とする交渉分野があり、誰しもが交通事故の交渉を得意としているわけではないからです。

依頼の前には、必ず、相談する弁護士が所属する弁護士事務所のホームページにて、交通事故の案件を扱っている事務所か、その事務所で交通事故の解決実績があるかを確認しましょう。交通事故の示談交渉は離婚や労働の相談と違って、後遺障害認定の申請があったり、将来どれだけ治療のために費用損失が出るかなどの慰謝料計算のため、多くの医療知識が必要になってきます。そのため交通事故を扱っていない、もしくは実績の少ない事務所であると、きちんと慰謝料を請求できない可能性があります。
必ず、依頼の前に一度相談し、自分の今の状況を話したときに明確に回答をもらえる弁護士であるかを確認してから依頼するようにしましょう。

依頼をするにあたってもう1つ気になるのは、費用面かと思います。
弁護士に依頼するのはとてもお金がかかる、弁護士を頼んでしまったら費用倒れになってしまうのではないか?と不安な方も多いのではないでしょうか。
一般的にかかる弁護士費用は以下の6つがあります。

  • 相談料
  • 着手金
  • 時間制報酬
  • 日当
  • 報酬金
  • 実費もしくは事務手数料

実費もしくは事務手数料は事務所によって多少異なりますが、依頼者や保険会社とのやり取りにかかる切手代や郵送費ぐらいですから、10,000円程度が相場かと思います。
このほか着手金や報酬金に関しても、事務所独自の規定がある場合もありますが、多くの事務所はLAC基準という日本弁護士連合会(日弁連)が保険会社と取り決めた規定に基づいた金額になっています。

【LAC基準の報酬規程】

経済的利益の額着手金報酬金
125万円以下10万円経済的利益の16%
125万を超え300万円以下経済的利益の8%経済的利益の16%
300万円を超え3000万円以下経済的利益の5%+9万円経済的利益の10%+18万円
3000万円を超え3億円以下経済的利益の3%+69万円経済的利益の6%+138万円
3億を超える場合経済的利益の2%+369万円経済的利益の4%+738万円

※相談料は1時間当たり1万円、超過15分後ごとの2500円を請求することができる。
※出張法律相談に要する時間が1時間以内のとき3万円、出張法律相談が1時間を超える場合は超過 15分ごとに2500円

弁護士費用特約の保険に加入している場合、これらの費用は依頼者に代わり、加入保険会社が費用を払ってくれます。弁護士費用特約の支払上限は、相談料10万円、弁護士報酬金300万円ですから、死亡事故のような損害が大きな事故である場合を除き、基本的にはこれを超えることはなく、弁護士費用特約の支払のみで弁護士費用が負担できます。
また、弁護士費用特約の上限金額を超えてしまうような場合、そういった案件はそもそも裁判になることが多いですから、弁護士費用は相手方に一部請求することができる、もしくは示談金の中から賄えるため、費用倒れをすることはないのです。

これを見て、ご自身の加入している自動車保険に弁護士費用特約がないため、費用負担が大きいなと思われた方もいらっしゃるかと思います。
同居の家族が加入している保険や住宅の保険についている弁護士費用特約も使うことが可能ですので、まずは、考えられる一通りの加入保険を確認することをお勧めします。それでも弁護士費用特約のついている保険が1つも無い場合は、相談料・着手金が無料の事務所も多くありますし、完全成功報酬制をとり、示談金の中なら報酬金を差し引く事務所もあります。
保険会社に請求しない弁護士費用につきましては、LAC基準とは別に、事務所ごとの報酬体系をとっている法律事務所が多いので、弁護士事務所に相談に行く前に一度ホームページ等で確認してから相談することをお勧めします。

4. まとめ

今回は、弁護士に相談・依頼をするタイミングについて、説明してきました。
弁護士への相談・依頼は「できるだけ早く」相談することが大切です。
「これからどうしたらいいんだろ」「示談まで自分だけで保険会社の対応をするのが不安」「できるだけ多くの示談金をもらいたい」と思ったら、一度弁護士に相談してみましょう。

また、対応全てを弁護士に依頼したいと思ったら、依頼のまえに、その事務所が交通事故を専門に扱える事務所か、弁護士報酬などの費用負担はどうなのかを確認してから依頼することも重要です。納得のいく示談をするためにも、納得のいく弁護士選びが大切です。

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